鋭い時代性を感じさせるホラー
Us (邦題「アス」)
17 年に脚本・監督を担当した異色ホラー映画「ゲット・アウト」が大ヒットし、アカデミー賞脚本賞も受賞したジョーダン・ピールの長編2作目。本作もユニークなホラー作品で、公開1週目で興業成績第1位と、最高のスタートを切った。
サマーハウスに休暇でやって来た仲の良いウィルソン一家の前に、彼らとそっくりな4人組が現れた。赤いジャンプスーツを着た彼らドッペルゲンガーは、まず父そっくりな男が父・ゲイブ(ウィンストン・デューク)を襲い、母そっくりな女「レッド」は母・デレード(ルピタ・ニョンゴ)に手錠をかけ、自分たちが彼らのダブルとして、いかに惨めな暮らしをしてきたかという恨みがましい話をする。強靭な体力を持つ彼らは、一家を殺して自分たちが取って代わろうとしていたのだ。逃げ出した娘・ゾーラ(シャハディ・ライト=ジョセフ)と息子・ジェイソン(エバン・アレックス)らは近くに滞在するタイラー一家の屋敷にたどり着き、この現象が世界中で起きていることを知る。
後半は命からがら生き延びた一家が、執拗に追いかけるドッペルゲンガーらと知恵を絞って闘う様子がスリリングに描かれていく。闘いの中心は母のデレードで、彼女が一連の謎のカギを握っているのだ。冒頭で描かれるデレードの 1986年のトラウマ体験と、当時の米国を熱狂させたチャリ ティー・イベント「Hands Across America」などが次第に意味を持ち始め、ドッペルゲンガーらがどこから来たのかという背景も明かされていく。
前作のような人種差別の現在を明確に描き出す方向には向かわず、裕福なアフリカ系一家を主人公に設定にすることであえて人種を透明化し、むしろ今の米国のライフスタイルや価値観そのものへと視点を大きく広げた感があった。
ドッペルゲンガーはホラー向きなのだろう。自分とそっくりな人間と出会う気味の悪さは想像しただけでゾッ。私の好きな映画に、黒沢清監督、役所広司主演の「ドッペルゲンガー」があるが、本作は出会いの心理的衝撃よりも、なぜ彼らが存在していたのかについての仮説を提示して卓抜していた。
コメディアン経験の長いピールはアイデアの玉手箱のような人なのだろう。本作にもさまざまなアイデアやひねりの効いた笑いなどが全編に散りばめられいて、観客によって見えてくるもの、感じるものが違う気がした。
Us
(邦題「アス」)
上映時間:1時間56分
写真クレジット:Universal Pictures
シアトルではシネコンなどで上映中。