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犬と日本文化へのラブレター『犬ヶ島(Isle of Dogs)』

<span style=font size 10pt>上映時間1時間41分<span><br ><span style=font size 10pt>写真クレジットFox Searchlight Pictures<span><br ><span style=font size 10pt>シアトルではシネコンなどで上映中<span>

ウェス・アンダーソンの作風を「バロック・ポップ」と評した批評家がいる。クラシックの要素をロック・ミュージックの作曲や録音に持ち込む音楽用語だが、納得である。何かに偏執するオタクっぽい主人公と彼を助ける仲間、そして彼らを追う者たちの物語を、独特のユーモアと奇想、ロマンチシズムに包んで見せるアンダーソン作品。まさにクラシカルな響きを持つロックンロールだ。

彼の最新作は、日本を舞台にしたストップ・モーション・アニメ(以下SMA)。監督にとっては「ファンタスティックMr.FOX」(2009年)以来となる2作目のSMAで、長年の日本映画やアートへの憧憬を本作にギューッと詰め込んだ大労作だ。今年のベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞している。舞台は20年後の架空の都市「メガ崎市」。犬インフルエンザが猛威を振るい、危険を感じた小林市長(野村訓市)は全ての犬をゴミの島へと隔離してしまう。ところが市長の養子であるアタリ少年(ランキン・こうゆう)は、愛犬スポッツ(リーヴ・シュレイバー)を探しにひとりで島にやって来る。そんな少年を助けるチーフ(ブライアン・クランストン)、ボス(ビル・マーレイ)、デューク(ジェフ・ゴールドブラム)、レックス(エドワード・ノートン)らアルファ・ドッグの一群。ゴミの島を舞台に、彼らを追撃しようとする市警察と犬たちの一大攻防が始まる。

1本1本アルパカの毛を植え込んで作られた個性的な犬マペットの表情の変化が卓越し、まるで生きているよう。また、ドラマチックな太鼓演奏に乗せて描かれるメガ崎市の相撲や歌舞伎、危機を伝えるTVニュースなど、メインの物語を彩るサイド・シーンの丁寧さにも瞠目した。細部へのこだわりが本作の底力で、多少のちょっと変?があったとしても、愛と熱意を無視はできない。本作は完璧に日本を再現しようとする作品ではなく、アンダーソン監督の脳内にある日本のイメージを再現している作品なのだ。

実は猫好きという市長が送り出す犬狩り隊のイコンが猫の顔だったりと、アンダーソン独特の笑える要素もぎっしり。彼のファンは無論のこと、犬好き、マペット好きにはたまらない作品と言えるだろう。ファンのひとりとしては、DVDが出たら必ずゲットするつもり。何回も何回も見直し、凝りに凝った犬たちの表情やセットのディテール、キラ星のごとく登場する声の出演者ら(オノ・ヨーコ、渡辺 謙、夏木マリ、山田孝之、松田翔太、松田龍平などなど)のひと言ふた言を楽しむ予定。本作もまた、ファンを熱くさせるアンダーソン作品であった。

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。