『8人の女たち』や『スイミング・プール』『しあわせの雨傘』などサスペンスからコメディ、ロマンスまで多様な作品を独特の語り口で描いてきた異才フランソワ・オゾン。今やフランス映画界を代表する監督と言えるだろう。
そんな彼の最新作は揺れ動くジェンダー・アイデンティティと限りなくグレーなセクシュアリティをめぐるロマンス。いつもながら常識などを着地点としない華麗でコミカル、スリリングなオゾン・ワールドであった。
クレール(アナイス・ドゥムースティエ)は、大の親友ローラ(イジルド・ル・ベスコ)が生まれたばかりの娘を残して逝き、悲しみにくれていた。しかし、娘と夫を頼むと言い残したローラとの約束を守るため二人を訪ねると、なんと夫のダヴィッド(ロマン・デュリス)が女装していた。ローラの服を着ると赤ん坊が喜ぶのだと説明するダヴィッドだが、次第に彼の女装癖は生前のローラも知っていたことが分かる。戸惑うクレールに対して、ダヴィッドは女装した別人格ヴィルジニアと一緒に外出してくれと頼み、二人は頻繁に買い物や食事に出かけるようになっていく。
クレールには夫がいるが、彼女のローラへの思いは友情よりも恋愛に近く、ローラを失った深い悲しみをダヴィッド/ヴィルジニアと分かち合っているうちに……というお話。モラルを優先する米国映画などでは絶対ありえないフランス映画ならではの展開が面白い。
原作は英国のミステリー作家ルース・レンデルの短編『女ともだち』。オゾンが脚色して結末などは変えたようだ。レンデルの作品には社会的規範から外れたセクシュアルな女がよく登場し、そんな女を主人公にクロード・シャブロル監督は『沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇』『石の微笑』、ペドロ・アルモドバル監督が『ライブ・フレッシュ』を映画化している。オゾン監督はサスペンスのシャブロルと多様なセクシュアリティのアルモドバルらと同様に、得意分野をノビノビと描ききっている。
なんでもアリのフランス映画という言い方があるが、なんでもアリの核には「個」の尊重がある。ことセクシュアリティに関してはなおのこと。人間が個体である以上まさに十人十色。倒錯という枠づけは大きな意味を持たないのではないだろうか。
上映時間:1時間48分
シアトルはLandmark’s Seven Gables Theatreで上映中。
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