ディカプリオとブラピ、
最高コンビでハリウッド黄金時代がよみがえる
Once Upon a Time in…Hollywood (邦題「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」)
クエンティン・タランティーノ監督の映画に出てくる、ドライブ・シーンが好きだ。前を見据えるドライバーを正面から撮ったショット、制限速度無視で疾走する車を追うスピーディーなショットなどに60年代のフランス、イタリア映画が重なる。あの頃のドライブ・シーンは、過去やしがらみ、犯罪からの逃走、自由そのものを象徴していたと思う。本作にもブラッド・ピットがハリウッドを疾走するシーンがある。まさに自由!と見とれてしまった。タランティーノは、映画好きの記憶に眠る映像とその意味を、ビビッドによみがえらせる天才だ。
タランティーノの脚本・監督による4年ぶりの最新作、その舞台は1969年のハリウッドである。ちょうど、女優のシャロン・テートが犠牲になった忌まわしき殺人事件が起きた年。しかも、主人公は事件の起きた家の隣に住む俳優、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、彼のスタントマン兼ドライバーのクリフ・ブース(ピット)のふたり。西部劇ドラマで人気を博したが今や落ち目となったリックと、彼を支える朋友、クリフの固い友情を中心に据えながら、殺されたシャロン(マーゴット・ロビー)の派手な暮らしぶりも描かれていく。果たしてこの3人は、物語のどこでクロスし、殺人事件にどうかかわっていくのか? そこに観客の関心が向かう中で訪れる、意外な結末……。
主人公のリックは、複数の俳優たちから造形されたようだが、スティーブ・マックイーンやブルース・リーなど出演者の多くが実在俳優となっている。同時に、殺人事件を起こしたマンソン・ファミリーの共同生活の様子もしっかり描かれ、ハリウッドとヒッピーというふたつのカルチャーが混在したあの時代と場所の異様な空気が立ち上がる演出は、さすがタランティーノとうなった。
とは言え、2時間半超えの長丁場。監督独特の、謎解きとは無縁なグダグダの会話やエピソードは本作でも健在で、冗漫さはいつも通り。この寄り道がなければ1時間は短くなるのでは?と、思わぬこともないが、何度か見直していると、このグダグダがなかなか面白い、というのが彼の脚本である。
特筆したいのは、4年ぶりの主演を務めたディカプリオの名演。凋落して自信を失った中年俳優の虚勢と焦りを巧みに演じて瞠目させられた。また、腕っぷし自慢のスタントマンを演じたピットの敏しょうな肉体と華やかさに、ふとスティーブ・マックイーンを彷彿。このふたりの好対照が最高のペアリングとなって本作を引っ張り、映画作品としての成功に導いたことは確かだろう。公開後3日間の興行収入は4,035万ドルで、タランティーノ作品として最高額のオープニングを記録したのもうなずけた。ほんの数シーンしかない脇にも、アル・パチーノなど有名俳優を配して、豪華な作品という印象も醸し出している。
Once Upon a Time in…Hollywood (邦題「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」)
写真クレジット:Sony Pictures Releasing
上映時間:2時間41分
シアトルではシネコンなどにて上映中。