在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
外食産業の国際化?
昨年末のホノルル休暇の際、日本食レストラン街「ワイキキ横丁」が閉鎖されていて残念だったが、その跡地に日本食を含むアジア料理専門フード・ホール「スティックス・アジア」がオープンした。そう言えば当地でも、最近はアジア系レストランのオプションが一気に増えた感がある。
投資して起業すれば永住権を取得できるプログラムが提供されているカナダでは、移民による各国・地域の料理店が次々と開く。エスニシティ―によって外食産業は活発化。人の動き、情報交換が加速し、各国文化が交わることで新たな商品が生み出されるが、レストラン業界の浮き沈みも激しい。インターネットやパンデミックの影響に伴い、購買層の価値観も移り変わり、外食産業は予測できない変遷を見せる。
ホノルル滞在中、ワイキキで出合って感動したのが「餅ドーナツ」。実は、バンクーバーにも餅ドーナツの店があることがわかった。ダウンタウンのイコイと、市内南端に位置するモチドの2軒は、いずれも日本を意識した店名だが、「この手の嗜好品はやはり日本」というコンセプトが世界的に知られていることを示すのだろう。観光地のグランビル・アイランドの市場では、1979年創業のリーズ・ドーナツが連日長い列ができるほど人気を呼ぶが、ここも餅ドーナツ的な生地が受けている模様。ヒットしたコンセプトは国をまたいですぐに広まるようだ。
郊外のサレーにあるパスタ・ティモは、その味と値段の安さに引かれ、バンクーバーから車で30分以上かかるものの、つい通ってしまう。本場イタリアで修業した韓国系夫婦による家族経営の店で、評判だったレストランを売って新たに開店したと聞く。こぢんまりとした隠れ家的雰囲気は、まさに「ホール・イン・ザ・ウォール・レストラン」と呼ぶにふさわしい。当地のイタリアンで最も価値ある存在だと思う。メニューは大方20カナダドル未満とリーズナブルで、熱々のパスタがあふれんばかりに陶器の皿に盛られて出てくる。
また、バンクーバーのコストコ近くのタケリア・コレアノ(略してTAKO)では、韓国風味のタコスが食べられる。牛バラのグリルにチーズソースをかけたものや、唐辛子の利いたスパイシーな豚バラなどが入り、従来のメキシコ料理に新たな味覚を加えている。
以前も本コラムで紹介した近所のキイス・スシは、韓国系和食店。相棒ジェームズにならって、ちらしにはコチジャンとサラダ菜を別注し、残った酢飯や具材と混ぜ合わせて韓国風にいただく。違った文化を融合することで食の喜びが増す。
ちなみに北米を席巻するKポップ・カルチャーはフランスでも勢いを増し、最近は現地でコチジャンなどのうま味を取り入れた料理がブームだそう。いずれ、フランス語を公用語とし、フランス系移民が多く住むカナダにおける外食産業のフランスからの影響と、その変容についても紹介したい。