在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
ニッポン頑張れ?
お隣同士の日本と韓国。暗い過去はあるも昨今人の行き来は盛ん。今年8月に日本を訪れた韓国人観光客数は61万2,100人と中国に次いで第2位。韓国を訪れた日本人観光客数は32万3,465人で第1位(JTB総合研究所調べ:www.tourism.jp)。2003年のドラマ「冬のソナタ」をきっかけに始まったといわれる韓流ブームは、今や第4次の波に突入。急増する韓国人の日本観光と文化面での交流が平和なのは嬉しい。この秋両国を旅してこんなことに気づいた。
ウルの中央鉄道駅前で連絡バスを待つ人々。2004年に改造された近代設備は人の流れがスムーズ
同行した韓国出身の相棒ジェームズが早速こう言う。「日本はアナログ、韓国はデジタル化先進国」と祖国の発展ぶりを愛でる。思い出すのは、ソウルからチェジュ航空便で関西空港に飛んだときのこと。最初の関門、入管窓口で数百人もあろう長蛇の列に出くわし気がめいる。1994年オープンの第1ターミナルは古いせいか、いらいらして並ぶ部屋は灰色のコンクリート壁。案内の張り紙がさらに美観を損ねる。観光客歓迎の雰囲気は皆目どころか「来てほしくない」かのような印象さえ受ける。円安で急増した外国観光客への対応が追い付いていないのだろう。しかも入管の若い係官、この職務にありがちな傲慢さは相変わらずで、急ぎもしなければ対応も荒っぽい。そしてこういう時はなぜか自分の列だけが進みが遅く、順番が回って来たときにはビリから2番目という始末。
ソウル市内のしゃれたイタリアン・レストラン。唐辛子の利いた韓国風パスタは、日本でいう「たらこスパゲッティ」と似たフュージョン
東海岸の鏡ギョンポ浦ビーチには刺身好きが喜ぶ海鮮料理屋がひしめく
かたや、2001年にオープンしたソウル仁インチョン川空港では、たまたまか列も短くスムーズに通過。清潔で蘭の花が並ぶ通路は広々としていて人もまばら。入管の若い係官は残念ながら日本と同じく不愛想だったが、点在するかわいらしいロボットのセキュリティ要員が和やかな雰囲気を醸し出していた。ゆったりした待合席にはスマホの充電口があるのを見届けて、空港から市内へ直行する快速電車へと移動。券売機も並ぶ人の列はなく、難なく切符を購入できた。
東海岸江カンヌン陵市から沿岸を南北に走る列車は美しい海岸の景色が楽しめる。全予約制で50分も乗ってわずか10ドルの安さ
一方、日本のJR新幹線では「みどりの窓口」や販売機に群がる人の波をかき分け、乗車券と特急券を別々に購入しなければならない。初めての外国観光客にはさぞかし大変だろう。京都駅まで80分(距離89.7キロメートル)の「はるか」普通車指定席料金が3,370円(約22.5ドル)に比べ、仁川空港からソウル駅まで45分(距離61キロメートル)の専用直通エクスプレスが9,500ウオン(約7ドル)とビジターに優しい。
久しぶりに京都「哲学の道」を歩いて一休みしたカフェ「吟遊詩人」。京大名誉教授が退職後趣味でやっているという。おしゃべりな彼、旅先ではこういう機会こそ地元の話が聞けてあり難い
さらにジェームズの所見は続く。韓国人は政府が悪いとすぐプロテストするが、日本人は文句も言わず 指示に従うと概がいかつ括する。日本では年を重ねるにつれ職場での地位が上がるが、韓国は若くても実力があれば責任あるポストに就けると社会構造についても一言。その真偽は別として、日本の若者は往々にして体制に従順しがちだが、 韓国の若者は社会で起きていることをいち早く吸収し、取り込むのが早いという。また、日本では「頑張らなくても生存できる」が、韓国では生存競争が激しいのだとか。おまけに、日本では未だに新聞などのプリント文化が健在なのに対し、韓国では報道のデジタル化による新聞社の事業転換が進んでいるとも。
でも逆に、日本で昭和世代のシニアにうれしい経験もした。京都から博多行きの新幹線内で、教師に導かれた修学旅行児童30人と乗り合わせたが、誰一人として騒がず行儀が良い。これは従順な日本人の良いところだが、逆に皆が素直過ぎるとやっかむ自分は戦後っ子の反骨精神? また、京都で散策中、並んで歩く児童たちと何度かすれ違うと、一人が列から進み出て私に丁寧にお辞儀、「おはようございます」「 こんにちは」 と挨拶する。「老人を見たらこうしろ」と教師から言われているのかな、と勘ぐるも、そのマナーは自然で清々しい。
考えようによってはアナログも嬉しい。たとえば、日本滞在の最終日、雲仙温泉行きバスでは、未だに現金決算。50年前と同じなのにびっくり。乗車時に整理券を引き抜き、降りる際これと硬貨を指定の受け口に投じる。紙幣は別の機械に水平に差し込むと、両替済み硬貨がきっちり出てきて、運賃を勘定しながら支払うというもどかしさ。カード決済に慣れてしまった今、一瞬戸惑う感覚はあるものの、運転手のマナーも気持ちよく、座席に座るのを見届けてから発車する気配りはバンクーバーではまれ。地元の人々から受けた印象とも相まって、田舎に行くほど 時代が昭和のまま止まっていた。一種のカルチャーショックではあったが、このノスタルジーは悪くなかった。
今回日本行きの一番目当てとした「フ―ディー・タウン」博多。SNSで人気だといううどん屋には、昼前にすでに列ができ、さすが食道楽の街
多から南に足を延ばして訪ねた「大宰府天満宮」は週末もあって人がいっぱい。九州にはいろんな観光地があって旅行が楽しくなる
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