シニアがなんだ!
カナダで再出発
在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
ワイキキの将来を憂う
昨年11月末、パンデミックでキャンセルしたアラスカ航空のクレジットを使って、シアトルから3年ぶりのハワイへと旅立った。チェックイン後、指定ゲートで待機すると、携帯電話に出発ゲート変更の知らせ。急いで移動しつつ、数年後の自分は果たして対応できるだろうかと心配に。年々、手荷物は増え、旅行準備も難儀かつ面倒になってきた。ハワイでこれなら日本への帰郷はどうなることやら。
飛行機から見下ろすホノルル沿岸の海は、いつもの青ではなく、なぜかグレーに見える。何度も来たワイキキだが、パンデミックの影響は明らか。日本人観光客はまだ少なく、楽しみにしていた日本食レストラン街「ワイキキ横丁」も入り口にテープが張られたままだ(2023年1月現在、アジアン・フード・ホール「スティックス・アジア」として一部オープン)。それでも、にわか雨を交えつつ最高気温28、29度の晴天が続き、零下の北米とは一転して心地良いハワイの気候をうれしく思う。朝はピックルボール、午後はハッピー・アワーに浮かれる久々のバケーション。カナダや米本土で頻発する凶悪犯罪は、ワイキキにはない?
と思いきや、数日後に近接するホテルで発砲騒ぎが。警察も出動し、緊急車両が何台も出て道路を封鎖。見物人も大勢いて、まるでテレビのニュースを観ているかのよう。翌日の報道によると、48歳男性が10時間の立てこもりの末に撃たれて死亡した模様だ。ほかにけが人などはいなかったが、ワイキキも例に漏れず……。
そして、わが身にも事件が降りかかった。仲間たちと夕食後、ぼんやり信号待ちする私の隣に若い男が近付き、何か液体の入った瓶を笑いながら私の鼻に寄せてくる。逃げようとすると、今度は別の若い男がスマートフォンのライトらしき光で私の目をくらます。どうにか逃げおおせたが、もたもたしようものなら、おそらく財布などを盗まれたのであろう。人通りもある街なかで、こんなにも露骨な嫌がらせや暴力に遭ったのは初めての経験。無防備なシニアと見てのことか。
海面上昇も気になるところだ。前回来た時から、アラワイ運河の水面がまた上がっている。ハワイ大学海洋地球科学部が2020年に発表した研究によると、今後30年間で海面が10インチ近く上昇し、2050年までにハワイのビーチのおよそ4割が消失する可能性があるそうだ。地元のピックルボーラーが言うには、「キング・タイド」と呼ばれる、太陽と地球と月の位置関係から特大の潮の満ち引きが発生する自然現象の被害も懸念されているそう。地球温暖化の影響は計り知れない。さらに地下水の浸水、そしてビーチの浸食が重なって海面がもっと上昇するようなら、このピックルボール・コートが水面下になる恐れも。ビーチに壁を作るという大胆な計画さえ模索されているらしい。
今年の宿もすでに予約したものの、そう遠くない将来、ワイキキのビーチが海水で埋まってしまうかと思うと悲しくなる。