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クリスマスより正月

 

クリスマスより正月

バンクーバーの冬はシアトルより雨量が多く日中も短くて暗い日が多いそれでも趣味のピックルボールやダンスは屋内でも結構楽しめるので平気

「また、うっとうしい年末だ」と、家族がないせいか、北米に50年住んだ今でも、周りが浮かれるクリスマスには慣れない。幼い頃はクリスマスを楽しんでいた。当日朝に目が覚めたら枕元に置いてあるプレゼント。母は「サンタさんが置いていった」と言ってニンマリ。クリスマスイブにはイチゴのショートケーキを家族で食べた。でも、それだけ。

相棒ジェームズの7歳の孫娘がくれたクリスマスカード私の似顔絵がたまらなくおかしくかわいい韓国系の習慣に従ってポチ袋をあげるのだがクリスマスに慣れた子どもたちにはおもちゃのほうが喜ばれる

日本ではスーッと通り過ぎたが、シアトルでひとり暮らしをしていた時は、年末になると憂鬱だった。クリスマス・ディナーに招待してくれる友人家族もあったが、「さびしいと思われているのでは」と勘繰り、断っていた。参加して贈り物を交換するのもお金がかかる。正直、何を買ったら良いのかもわからない。ひねくれ者の私は、多くの人が大移動するこの時期、大雪で飛行機が遅れたとか、空港に長い列ができたとかニュースを聞くたびに「天気は悪いし、運賃も高いこの時期にどこへも行かなくて済む」と、ひとりほくそ笑んでいた。

近所のコミュニティーセンターが日頃のボランティアに感謝を込めて開いてくれた夕食ダンスパーティーピックルボール仲間と仮装姿で撮った写真でクリスマスカードがその場で作られるなど結構楽しめた

クリスマスを愛する人の気持ちを害するつもりはない。要は、大勢がやるからと言って自分も素直に従うのは嫌だという反発心だ。また、神の存在すら信じない私は、クリスマスに限らず、そもそも宗教的なイベントに価値を見出せないでいる。人々は「メリー・クリスマス」や「ハッピー・ホリデー」と挨拶を交わすが、私はちっとも「メリー」な気分ではなく、むしろ「くるしみます」なのだ。

クリスマスにはなじめないがバンクーバーのダウンタウンが色とりどりのイルミネーションで美しく飾られるのを見るのは悪くない

11月半ばになると、テレビやラジオはあたかも皆が聴きたがっているかのように一連のクリスマス音楽を鳴らし始める。そう、私は型にはまらない人たちを無視してしまう習慣が嫌なのかもしれない。

日本にも、西洋のクリスマスに準じる日本の慣わしがある。それは、正月。私の子ども時代は年末に人が集まって、土間で餅つきをした。忙しくも楽しそうに動き回る大人たちを見ていて心が躍った。元旦の朝には決まって分厚い年賀状の束を受け取る。お年玉付き年賀状をクラスメートや教師に必ず出したものだ。真っ白の割烹着を着て髪を整えた母が雑煮を作り、訪問客をおせちと酒でもてなす。母が急にきれいに見えてうれしくなる。訪問客はお年玉の入ったポチ袋を置いていく。そして母が「これは貯金よ」と言って、たんすの上のほうにしまう。一体、あの貯金はどこへ行ってしまったのだろう。

スタンレーパークにはミニチュア鉄道が通っている1880年代にバンクーバーに初めて着いた大陸横断旅客機関車のレプリカで1周するのに約15分かかるクリスマスには特別なデコレーションが施され広場の照明も見事

考えてみればクリスマスは、私が子どもの頃から喜んで従ってきた正月の西洋版。だから西洋人は抵抗なく喜んで続けるのだろうから、悪くは言えない。最近の日本でも、クリスマスイブは恋人とデートをする日で、家族がそろうのはやはり正月だそう。

昨年末のクリスマスはシングルの友人同士集まった。名付けて「嫌クリスマス」パーティー。私はやはり、クリスマスより正月がいい。

武田 彰
滋賀県生まれの団塊世代。京都産業大学卒業後日本を脱出。ヨーロッパで半年間過ごした後シアトルに。在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務。政治経済や広報文化などの分野で活躍。ワシントン大学で英語文学士号、シアトル大学でESL教師の資格を取得。2013年10月定年退職。趣味はピックルボールと社交ダンス。