今や我がシニア・ライフの良きサイドキックとなったジェームズは社交ダンス歴10年。以前のクルーズでコンテストに優勝したこともあってまた行きたいと言っていた。ミチコさんのすすめで2年前から習っている筆者もその気になり、エクスペディア代理店を経営するダンサー仲間のジョンに相談。それならと、彼自身が最近乗った、ダンス・フロアがうんと広いキナード社の「クイーン・マリー2」をすすめられ、東海岸に飛んでニューヨークからケベック・シティーまで1週間のダンス・クルーズに行くことになった。
元英国籍の「クイーン・マリー2」。乗船客の半数弱になる900数名が英国サウスハンプトンで乗り込んできた。大西洋を渡ってきた英国住民で、その英語も出身地によってアクセントが違い、理解しにくい。そんなこともあって、40人以上同船した日本人とロビーで会うと自然と話しかけたくなる。「三重県から来た田舎者です」と上品な婦人が謙遜するのが清々しく思えた。
伝統スタイルを維持するこの歴史的クルーズ船では夕食時に夜会服等の着用が義務付けられている。筆者は最初、休暇中にかしこまった服装をするのは結婚式や葬式に行くようでいやだったが、これからも時折いるだろうと思い、ハドソンズ・ベー・カンパニーで黒のスーツを新調。クルーズが始まって、蝶ネクタイをつけて、まるでアカデミー賞発表会にでも出席した気分で毎夜夕食会場に入ると、まんざら悪い気はしない。正装すれば不思議とお互いマナーや言葉遣いなども上品、丁寧になってしまう。たまにはこういうのもいいか。
社交ダンスは毎夜、夕食とショーが終わった9時前後から歌手付きの生演奏で始まる。フロアは踊り慣れたダンサーが多く、自信のないダンサーは出遅れる。単身客には、船会社と契約したダンス・ホストのボランティア男性5人が、女性の相手をするようになっている。ジェームズが「これなら自分にぴったり」と、ホスト役のボランティア職に興味を示し、迫る退職後はダンス・ホストをして世界中を無料クルーズしたいと言う。
我々は幸いにも、それぞれのレベルにあった踊り相手をトロントからやってきたフレンドリーな中国系グループに見つけた。彼らとは日中もプールサイドでピンポンを楽しむなどして遊び相手に事欠かない。やはりアジア人とは気が合うようだ。クルーズが終わりに近づくとタレント・ショーが開催され、ジェームズとトロントから来たイライザでルンバを披露することとなった。僅か15分のリハーサルにもかかわらず、自分もいつかはこうなりたいと思わせるような見事な踊りを見せてくれた。
[カナダで再出発]