もうひとつの アメリカ西部へ
アメリカ西部と聞くと、われわれ世代は「ローハイド」や「アニーよ銃をとれ」などのテレビ番組で見た南方の砂漠やサボテンが目に浮かぶ。しかし、実は北方にも西部劇の背景になる景色がある。そこを訪ねると、昔住んでいたパイオニアやカウボーイの生活ぶりが想像できた。今ここに住む人たちの生活習慣や価値観はおそらく、海沿いに住む都会者とは異なり、かなり保守的なのだろう。公共の場で映るテレビ番組、政治家のポスターなどから考えさせられる。
9月半ば、シアトル訪問の際、旅慣れた旧友の勧めで残夏を求めてアイダホ州中部にあるソートゥース山脈を目指し、1週間のドライブ旅行をした。目的地の偉大さに加え、途中絶えず変化する大自然の風景を愛でつつ、その中に自分がいることを実感し、普段暮らす西海岸では味わえない感動を覚えたことはこの旅最大の成果であった。
まずI-90で南東へ。コロンビア河を渡ってすぐ国道26号線に乗り換え、アイダホ州ルイストンへと向かう。ワシントン州中部の平地を横切っていると思ったら、まるで地球が転がるように「パルース」と呼ばれる丘陵地帯へ出た。心休まるなだらかな景色を堪能し、曲がりくねった道路を下ると、こげ茶色の山々に挟まれたスネーク・リバーの両岸にクラークストンとルイストン両市が現れる。このオアシスは、19世紀初頭に米大陸横断陸路を発見したルイス・クラーク探検隊にちなんで名付けられた。思えばルイス・クラーク探検隊は、気の遠くなる数の道路も橋もない山河を、馬車や人力のみでよくも越えられたものだ。
翌日は南下し、マコーまで3時間のドライブ。途中、景色はパルースから、ごつごつとした崖がそびえ立つ起伏の激しいものに変わった。高地にあるマコーの街では、夏は湖畔でウォーターアクティビティー、冬はウィンタースポーツが楽しめる。ここは1940年に封切られた著名な映画「北西への道」のロケ地としても知られる。
1泊してさらに南下を続ける。流れの急な川、砂漠、峡谷に点在する深緑のオアシスなどを見ながら道路をくねくねと上り続け、やがて地面がなだらかになったと思うもつかの間、目的のソートゥース山脈が遠くに出現。車を脇に止めて、写真撮影をした。ソートゥースは日本語で「のこぎりの歯」という意味。その名の通り、堂々たる山脈が迫り、どでかい自然に対して人間がいかに小さく、かつ歴史の浅い存在であるかを再認識させられる。
やがてケッチャムに着く。約6ブロック四方にわたるサンバレー・スキー・リゾートに隣接する街だ。辺りは山間の別荘地らしい雰囲気を醸し出す。ここに来たら、リフトを備えた全米初のスキー場として1936年にオープンしたサンバレーは、やはり見逃せない。