カナダに引っ越した後も第2の故郷、シアトルには別宅(pied-à-terre)がある。提供してくれているのは、旧友のスティーブだ。彼に誘われ、4月初めにオレゴン州ベンドにドライブ旅行をした。ポートランドで1泊してからフッド山を横目に峠を越え、マドラスで南下するや高原型砂漠へと景色が一変。広い盆地の東には、約1億年前の火山の噴火でできた尖った玄武岩の山々が覗く。
訪問3度目となるベンドは、人口増加率で上位にランクされる、人口約9万1,000人(2016年)の街。バチェラー山でのスキーが人気で、都会から移住した団塊世代も多い。標高約3,600フィートに位置するため、4月というのに日中でも肌寒く、夜は零下になる日もある。
ダウンタウンには都会的センスのブティックやギャラリーが並ぶ。ふと出くわした「ワビサビ」と称するギフト・ショップでは、白人店員が私を見るや「店主は日系ではないし、日本に行ったこともないから」と但し書きのように言う。なるほど、アメリカ人が興味を抱きそうだが日本人にはへんてこりんな趣味の着物や、鯉のぼり、招き猫などの「日本らしき」品が無造作に並んでいる。その中で幅を利かせているのは、やはりアニメ・グッズ群だ。変遷する米国人の現代日本観を垣間見た気がした。
食事は、創業から80年以上というミラー池沿いの「パイン・タバーン」(PineTavern)へ。松の大木が屋根を突き抜けるパティオがあり、観光名所になっている。ネットの評判を見て決めた「ザイデコ」(Zydeco Kitchen & Cocktails)は、クレオール風の料理を提供するレストランだ。エスニック料理店もいくつかあるが、94%を占める白人住民を意識してか、フュージョンが主流。「健康志向」の影響も見られ、中近東料理店「カババ」(Kababa)は、ピタにハマス、生野菜をくるんで食べる前菜が美味。近頃は都会でなくてもグローバル化しているようだ。
1860年代の同地域の様子を再現しているハイ・デザート・ミュージアムも、ぜひ訪れたい場所。当時の先住民族やパイオニア移民の生活ぶりがうかがえる。屋外では原生林の中、カワウソ、ヤマアラシ、キツネ、さらにワシやタカなど、野生動物の生態も見学できる。
のんびりしていたら1週間があっという間に過ぎた。帰途、行きなれたコロンビア河沿いのスカメニア・ロッジで1泊。この宿には岩で囲まれた露天風呂があり、日本人にはありがたい。コロンビア河渓谷の雄大な景色を見下しながらの夕食もうれしい。
バンクーバーに戻ったら急に春。八重関山の街路樹が満開になっていた。