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ワシントン・アスレチック・クラブ

アールデコたてものツアー(5)
Washington Athletic Club(ワシントン・アスレチック・クラブ)
1325 Sixth Avenue/落成:1930年

シアトル建築協会のツアー「Diamonds & Gold: The Art Deco Skyscraper Northwest Style(ダイアモンド&ゴールド:ノースウェストのアールデコ高層建築)」で巡るビルをご紹介しているシリーズ。最終回は、ワシントン・アスレチック・クラブ(WAC)。

建築家が全米各都市のアスレチッククラブを視察して設計したアールデコ様式の21階建てビルで、建築費用は200万ドル以上という当時では破格の豪華な施設。用地の買収が完了したのは1929年10月30日、まさに株価が大暴落した翌日だったという。建設は大恐慌と同時に始まることになったが、西海岸の経済はすぐに影響を受けなかったため予定通りに進行し、1930年に華やかに開業した。

オープン当初は当然ながら男性中心のクラブで、入口もエレベーターもレストランも、男性用と女性用が分かれていた。開業記念のディナーパーティーは、男性メンバーのみ、男性メンバーとその妻、男性メンバーとゲスト、と3回開かれたという。

しかし、開業後まもなくシアトルにも不況の波が押し寄せ、多くの会員が退会して経営が立ちいかなくなった。地元の富裕なビジネスマン3人がクラブを買い取り、よりファミリー向けにするなどの工夫で数年間を乗り切った後、第二次大戦後にクラブのメンバー組織がビルを買い戻した。その後1950年代には拡張工事も行い、ホテルと3つのレストランも備える、米国最大のアスレチッククラブの一つになった。現在もシアトルのエリートビジネスマンたちが顧客とのカジュアルな会議に愛用する社交の場だ。

短いアールデコ時代の最後を飾るビルの一つで、縦のラインを強調して高さを感じさせるデザインに加え、いくつかの面白い様式が混在している。設計者はピカソのファンだったそうで、ビルの外壁にはキュビズム風の人物像が背中合わせに配され、その真ん中にシンプルにデザイン化された3段の滝とケルト風の植物の意匠が組み合わされている。ロビーではエレベーターが目を引く。オリンピック選手のレリーフとWACの紋章をあしらったピカピカのゴールドの扉がアールデコらしさ満点。

大恐慌を境にアールデコの時代は終わりを告げた。不況と戦争を抜け出した後、装飾を廃し、合理性と機能性を追求したインターナショナル・スタイルのビルがどの都市でも主流となる。20世紀半ばには古臭いキッチュとみなされていたアールデコ様式だが、現在ではクラシックな趣きが愛され、大切に復元されて、超モダンなビルが次々に建設されるシアトルの街に優雅なカラーを添えている。

[たてもの物語]

Tomozo
シアトル生活7 年めの英日翻訳者。 livinginnw.blogspot.com 協力:シアトル建築財団(Seattle Architecture Foundation/SAF) シアトルの建築やデザインと人びとを結ぶことを目的に活動する非営利団体SAFは、シアトルの建てものを巡る楽しいツアーを常時開催中(英語のみ)。本コラムはツアーで紹介されるエピソードを中心に、SAFのエキスパートの協力を得ています。詳細はseattlearchitecture.orgへ。