シアトル駐在日誌
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
取材・文:磯野愛
#22 澤村和矢
◾️大阪府出身。大学卒業までは卓球ひと筋で、中学から親元を離れて高知・青森・仙台と、全国の強豪校で腕を磨き、2度の全国優勝も経験。城東ベントシステムUSAの設立に一から携わる。サーフィン、ゴルフ、トライアスロンを楽しむ、バリバリのスポーツマンでもある。
学生時代はとにかく卓球一色で、勉強をすることもなく就職活動を迎えてしまいました。厳しいスポーツの世界を生き抜いてきたそのスピリットだけを買ってもらい(「試験がなかった」という言い方も!?)、1997年、建材メーカーの城東テクノ株式会社に入社。今年で入社22年目を迎えました。初めの12年間は、仙台営業所の営業マンとして仕事に打ち込んでいました。城東テクノは「キソパッキング工法」と呼ばれる、住宅の床下換気システムに必要な建材をメインに販売しています。この工法では、建物の床下に換気用の穴を直接空けることなく換気性を向上でき、また耐震性の面からもメリットがあります。入社当時の20年前は、まだ誰も知らないような最先端の工法でしたから、営業先の設計事務所や住宅メーカーでは門前払いからのスタートでした。この工法は、各地での大きな地震の被害をきっかけに注目を集め、現在の日本ではほぼ100%の建物で採用。おかげさまで城東テクノの製品も高いシェアを誇っています。
次の東京支社勤務時代には、2013年、アメリカへマーケティング・リサーチに行くという機会に恵まれました。日本の人口がどんどん減り、建物の着工数も2020年の東京五輪後は減少していくと予想される中、将来を見据えて新しいマーケットを開拓するためのリサーチでした。アメリカでの反応は思いのほか上々で、私は早速、米国支社の設立を社内で提案。先行して米国オフィスを持っていた販売パートナー、インテラUSA(本欄で前回登場)の皆さんも後押ししてくれました。上司を説得し、2017年には、レドモンドでのオフィス開設に至りました。
当時のメンバーは、私のほかに社長と技術者の3名だけ。現在では1名、アメリカ人の営業スタッフも加わっています。アメリカではまだまだ知られていない工法ですので、仙台時代のように新規開拓営業に明け暮れる毎日。アメリカ中の建築・設計オフィスやハウスビルダーを回る傍ら、全米各地で開催される建材メーカーの展示会に月1、2回出展しています。ほとんどが新規のお客さまですので、しんどい時もあります。今はただ、未開の地で先駆者になれた喜びと、この工法を採用した建物が実際に着工し、形に残っていく達成感に支えられて、何とか踏ん張れています。ここ2年間で全米に60棟の実績もでき、製品への問い合わせも徐々に増えてきています。
自宅はサマミッシュにあり、妻と14歳の息子、そして12歳の娘の4人暮らしです。多感な時期にこちらに来た子どもたちが、現地校になじめるかどうかがいちばんの気がかりでした。自分自身、卓球の強豪校への転校を繰り返したので、転校生の苦労はよくわかりますし、それが異国ともなればなおさらのこと。最初は言葉の問題もあって相当の苦労があったようです。子どもたちには、自分が身を置いた環境の中で最良のカードを引きながら、たとえ勉強が得意でなくても、人とのつながりを大切にして、そこで培ったコミュニケーション力でたくましく生きていける人間になって欲しい。そういう思いで、ふたりを見守ってきました。今では長男は所属するサッカー・チームをエンジョイし、長女もすっかりアメリカに溶け込み、英語の次は韓国ドラマとKポップにハマり、日々韓国語も上達しています。
先日、ラスベガスで行われた全米最大規模の展示会ではベスト・エナジー・エフェシエント・プロダクトという最も栄えある賞を獲得できました。これからも城東テクノ唯一の海外拠点として、後に続く人たちの道を開拓していけるよう、力強く邁進してきたいと思います。