『Loving』
1958年のバージニア州。アフリカ系のミルドレッド(ルース・ネッガ)と白人のリチャード(ジョエル・エドガートン)が恋に落ちた。だが、二人が暮らす州では異人種間の結婚は禁止。彼らはワシントンDCで結婚後、バージニア州内で新生活を始め、ミルドレッドは妊娠した。そんなある晩、警官が夫婦の寝室に現れ、二人を逮捕した。異人種間結婚の罪を犯したからだ。刑務所行きを逃れるため、二人は罪を認め、25年間の州外退去を受け入れることに。
本作は、この夫婦が1967年に最高裁で同法の違憲を勝ち取るまでを描いた実話である。だが、9年間にわたる公判の経緯をたどる法廷ドラマなどではなく、長く厳しい道のりを耐え抜いた夫婦のドラマとして描かれている。タイトルのLovingは夫婦の姓であり、本作のテーマだ。
脚本・監督は『MUD マッド』で注目を浴びたジェフ・ニコルズ。今春公開された秀作『ミッドナイト・スペシャル』では切ない親の愛を描いたニコルズが、本作では夫婦の愛をじっくりと描き出し、前作に引けをとらない優れた作品を生み出した。彼の作品群の中では拍子抜けするほど静かな物語で、南部の人種差別を描いた映画作品だが、銃撃や焼き討ちなどの暴力も一切描かれない。脚本を書くにあたって2012年の同夫妻を描いたドキュメンタリー映画『The Loving Story』を参考にし、法廷論争などの派手さを退け、できる限り夫妻の実像と日常に忠実な内容を心がけたという。
ひんぱんに描かれる3人の子どもたちの姿。小首を傾げて静かに語るミルドレッドと黙々と建築現場で働き続ける無骨なリチャード。主演二人の好演もあり、彼らの平凡な日常描写を通して、二人が守ろうとしたものがしっかりと伝わる。
離婚を勧める友人に「自分は絶対に離婚しない」と言い切るリチャード。逮捕時は恐れおののくだけだったミルドレッドは、年を経るごとに芯の強さを持ち始め、ついにケネディ司法長官に手紙を書いて、違憲裁判のきっかけを作っていくのだ。後年、歴史的な判決を勝ち取った彼女は「わたしたちは、法律を変えるために闘ったのではなく、愛のために闘っただけ」と発言している。歴史を変えてきたのはこういう人たちなのかと、目の覚める思い。大統領選後のショックから少しだけ抜け出せた気がした。
上映時間:2時間3分。シアトルはLandmark系のTheatre で上映中。
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