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『ミッドナイトスペシャル』親の切なさ

新作ムービー

親の切なさ
『The Midnight Special』
(原題『ミッドナイトスペシャル』)

©Warner Bros. Pictures
©Warner Bros Pictures

ジェフ・ニコルズ監督作品は断然面白い。映画を撮り始めてまだ10年未満、自ら書いたオリジナル脚本で撮った彼の作品リストには、『テイク・シェルター』『MUD – マッド- 』などの秀作が並ぶ。本作は新境地に挑戦した意欲的作品で、期待を裏切らない出来栄えであった。
あるカルト集団から9歳の息子を連れ出した父(マイケル・シャノン)と彼を助ける親友の州警察官(ジョエル・エドガートン)。3人はカルトを離れた母(キルステン・ダンスト)と落ち合い、息子を決められた期日にある場所へと連れていく計画を練る。そんな彼らを追うFBIとNSA。さらに少年を取り返そうとするカルトメンバーが絡み、緊迫した追跡劇が展開するSFドラマだ。
彼らが必死に追うこの少年は何者なのか。目から強力な光を放つ超能力者、カルトでは神の代弁者と崇められ、政府からは国家機密の解読者として危険視される。どこかスピルバーグ監督作品を思わせる内容だが、SFファンタジー的なムードはなく、焦点は我が子を追っ手から守ろうとする親の必死な姿にある。
逃避行の最中「もう僕のことを心配しないで」という息子に「子どもを心配するのが親の役目なんだよ」という父。3次元世界では理解出来ない圧倒的な力を持つ息子でも父とっては最愛の子、守ってやりたい。シャノンとダンストの好演もあり、自分の子でありながら彼の運命を理解することも出来ず、無力である親の切なさが、ヒシヒシと伝わってきた。
少年はどこから来たのか、目から放たれる光は何なのか、なぜカルトと関わるようになったのか、多くの謎に包まれて物語が進んで行くが、謎が気にならない。
たぶん、謎が明かされないからこそ親の困惑と必死さが現実感を持って伝わってくるからだろう。この親たちと同様に人間が知っていることは、宇宙のほんの一部に過ぎないのだ。
目から光を放つ少年という非現実的な設定でありながらファンタジーに流れず、しっかりと人間の体験と感情を描きだした手腕に感心した。ジェフ・ニコルズ、これから米国映画を牽引する実力のある監督として注目を続けたい。

シアトルはSIFF Cinema Uptown, Sundance Cinemasなどで上映中。上映時間:1時間41分。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。