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第5回 日本の施設事情

団塊の世代の日本人が今直面する、親の介護。高齢の父母の暮らしを手助けするために、日米を往復する夫婦の暮らしとは?

 

父が亡くなり、90歳で福岡にひとり暮らしとなった母。彼女の願いは、弟夫婦が退職後に福岡に戻って同居するというものでした。けれども弟は逆に、横浜のマンションでの同居を提案。自宅での暮らしに執着する母は、車で1時間のところに住む妹の助けを借りながら、現在もひとり暮らしを続けています。

私はシアトルで、年長の友人たちがリタイアメント・ホームに移り住むのを見てきました。母も施設へ移ってくれれば、食事の確保や安全確認の点から安心できます。妹の負担は軽減されますし、友人との交流の場が増えるのではとの期待もあります。しかし、施設に入った知人を「かわいそうに」と言う母にとって「施設」のイメージは決して良いものではなさそうです。確かにひと昔前の日本では、高齢者向け施設はそう多くはありませんでした。が、高齢化社会となった現在では、選択の余地は増えています。

かつて日本からの訪問者に、24時間看護サービスのシアトル敬老を案内すると、日本の「特養」に近いと言われました。特養とは、特別養護老人ホームの略で、社会福祉法人や地域自治体が運営する公的な施設です。費用は安くて済みますが、高齢者人口の増加につれて入居資格が厳しくなり、現在は要介護3~5が要件。地域によっては何年も待つ場合があり、待機者は全国で40万人と言われています。

これに対し、民間経営の有料老人ホームにはそのような制約はなく、入居一時金や介護なども、施設によりさまざまです。たとえば私の友人が探し出した介護付き老人ホームは、入居一時金が3,000万円を超えるものでした。これに対し、母の友人が入居している施設は、入居一時金が数十万円、月額利用料は14万円というもの。本当に千差万別です。

近頃は特に、「サ高住(さこうじゅう)」と略されるサービス付き高齢者向け住宅が増えています。バリアフリーなど高齢者を考慮した建物に、日中は介護スタッフまたは相談員が常駐しています。有料老人ホームのほとんどが入居権利を買い取る形なのとは異なり、サ高住の入居はアパートの1室を
借りるような賃貸借契約。アメリカのアシステッド・リビングやリタイアメント・ホームと同じような契約形態で、老人ホームより気軽に入居できます。

親の介護に日米を行き来する私たち夫婦は、子どもに同じような苦労はさせたくないと思っています。自分たちの将来に備え、日本でもアメリカでも施設を見ておこうと計画しています。

楠瀬明子
福岡県生まれ、九州大学法学部卒。1988年より11年余り北米報知編集長を務め、1993年に海外日系新聞協会・優秀記事賞を受賞。冊子「ワシントン州における日系人の歴史」(在シアトル総領事館、2000年)執筆。