今回は女子大生の話をしよう。彼女は19歳。授業が聞きにくいことがあり、心配になって来院したという。診察室は静かなので、会話に問題はなかった。彼女の取り越し苦労かなと思いながら聴力検査をすると、右耳は正常だが左耳はほぼ聞こえておらず、元に戻すことは不可能な症状だった。私が結果を説明し終わると、彼女は声を出さずに泣き始めた。ティッシュの箱を膝に置き、下を向いたままだった。無理もない。少し心配という理由で来院したものの、最悪のことを聞くとは予想していなかったのだと思う。やがて彼女は席を立ち、外の空気を吸いに部屋を出た。しばらくすると彼氏を連れて戻ってきた。どうやら、外の車の中で彼女を待っていたようだ。彼女は、左耳の聴力がなぜ元に戻らないのかをもう一度説明して欲しいと言った。その理由を丁寧に伝え、さらに、片耳のみの生活で注意する点などを話した。聴力に問題がある人には、周囲の協力と理解が不可欠であることも伝えた。彼は、私の説明を聞きながら、「こうしようね」、「ああしようね」と、彼女に語りかけていた。彼女は涙目で頷き続けた。その日は、彼女にとって最も辛い日だったかもしれないが、同時に彼との絆をより深めた日でもあったようだ。
