50代の女性が久しぶりに連絡をしてきて、入手した補聴器を調整して欲しいと言ってきた。彼女は、10年ほど前から聴力に問題があり、以前に住んでいた別の州で補聴器を購入していた。数年前に、こちらの大学の助教授として教鞭を執るため移って来た。それまでは研究が中心のため、教えたり、人と会話をしたりする機会がそれほどなく、補聴器もあまり使っていなかったようだ。教え始めて、生徒の言っていることがわからないということがたびたびあり、しまっておいた補聴器を使うために調整に来たのが、そもそもの出会いだった。かなり汚れていた補聴器をきれいにして、聴力検査を行い、その結果をもとに補聴器を調整した。補聴器は平均寿命が5年から7年と言われているが、専門
家がメンテナンスすれば、それ以上使うことは可能だ。調整後の補聴器に満足して、その後は定期的に来るようになった。
そんな彼女が、別の補聴器を入手したという。彼女が持参したのは、義理の父親から譲り受けた補聴器だった。昨年発売された新型の高級補聴器で、まだ保証も付いていた。その男性は、補聴器にどうしてもなじむことができず、返品しようと思った時には返品期間はすでに過ぎていたため、彼女に譲るということだ。耳かけ式なので、耳の中に入る部分や中の設定を変えれば、別の人が使うことが可能になる。
補聴器は医療器具なので、少なくとも1カ月は使って返すことができると州の法律で決まっている。補聴器を販売する側は、それを明確に知らせ、調整などの目的で数度来院してもらうことを勧めるのが
普通だ。しかし、補聴器の販売を専門にしているような場合、販売までは親身になるが、入金が済むとアフターサービスを怠るところが多くある。そういう場所では、購入する側は、患者ではなく客扱いとなりがちだ。購入者側もほとんどが、眼鏡のようなものだろうと勘違いして価格だけで安易に決定してしまう。店のような構えで予約もいらず、気軽に通りから入っていけるようなところは、そういった場所が多いので気を付けたいものだ。補聴器が商売の道具扱いになっている。彼女の話を聞いていると、彼女の義父はなじめなかったというよりも、なじむように適切に指導されなかったのではないかと思える。
とにかく、その補聴器をきれいにして、彼女の聴力検査に基づいて設定を変更した。彼女が譲り受けた補聴器は、高品質、高性能で、安価なものではない。気の毒な彼女の義父の話を聞くと非常に腹立たしく思うが、その補聴器を装着して満面の笑顔を浮かべている彼女を見るとうれしくも感じ、複雑な気持ちだった。
[耳にいい話]