今回は二次的な症状(Compensatory Complaints/symptoms)について話したいと思います。わかりにくいかもしれませんが、一般的な例を挙げますと、右足首をケガしたときに患部を気にするあまり、かばうような歩き方や姿勢になり、左足の負担が重なって、左足もケガをしてしまうケースがあります。また、こうした患者さんの治療をしていくと、もともとのケガが治っていく過程で、反対側や全く違う箇所に痛みが生じる場合もあり、それも二次的な症状と言えるでしょう。
ほかにも、こんな事例があります。「左肩が上がらない」「左肩に痛みが生じる」という症状で、確かに肩の可動範囲が小さく、無理に上げようとすると痛みがあります。典型的な五十肩(Frozen Shoulder)のように思えますよね。しかし、もっと詳しく診察をしていくと、右側の腰や骨盤辺りにも違和感があり、歪みも見つかりました。ただ、腰のほうは痛みがあまりないので、こちらは気にならないとのこと。そのため、関連性は低いというのが当初の診断でした。ですが、左肩が上がらない原因が実は右側の骨盤にあったのです。
これを科学的に立証するデータがあります。医学の実験で、腕を肩の上までに上げる時に、最初に収縮して活動する筋肉をMMG(Mechanomyography)という機械で測定した結果があります。これによると、左肩を上げる時に最初に反応するのは反対側、つまり右側の太もも(Hamstring)とおしりの筋肉(Glutes)で、その後に右の腰の辺りにある傍脊柱筋群(Paraspinal)という筋肉、最後に肩の筋肉(Rotator Cuff)が活動するという興味深い結果でした。もちろん、これらの筋肉の反応スピードはとても速く、当人すら自覚できていないはずです。つまり、この患者さんの場合、痛みが比較的少ない右腰が一次的な症状で、左肩の可動範囲の減少はその二次的な症状だったのです。
もっと簡単に補足の話をしてみましょう。まず、右側の膝を90度に曲げて片足で立ってみてください。この時に左腕を頭の上まで伸ばすと、バランスは安定しますが、同じほうの右腕を上げるとバランスは崩れてしまいます。実際にやってみると実感できるはずです。
片足で立っている時に踏ん張っているのは足のはずなのに、どの腕を上げるかによって真っすぐ立っていられなくなるほどの影響を受けます。この時に、問題となるのは足ではなく腕ですよね。つまり、現在の症状が必ずしも、その患部と直接関わりがあるとは限りません。
患者さんに運動やストレッチを教える時に受ける質問で、「左右両方やるべきですか?」というのがあります。答えはYesです。仮に、片方にしか症状がなくてもストレッチや運動は左右対称に行うのが効果的です。実は反対側がメインの場合もあるということですね。