健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
歯周病は遺伝する?
先日、歯科のセミナーを受講したところ、歯周病は糖尿病と同じぐらい遺伝性要因が関係した疾患であるという話でした。遺伝が全ての疾患原因である場合を1とすると、歯周病や糖尿病は0.7だそうです。確かに歯科の臨床に携わっていると、歯磨きはまずまずなのに、歯肉の炎症の程度が高い患者さんに遭遇します。親子で歯肉の炎症の程度が高いケースもよく見かけます。逆に、口腔清掃はあまり良くないのに、歯肉の炎症はそれほどひどくないケースもあります。今回は歯周病の遺伝的要因について書いていきたいと思います。
若年性歯周炎
早期発症型侵襲性歯周炎(若年性歯周炎)は、一般的な歯周病に当てはまらない特殊な疾患で、最も遺伝との関わりがあるとされる歯周炎です。全身は健康でも、急速な歯周組織破壊(歯槽骨吸収、深い歯周ポケット)が10〜30歳で出現し、家族内発症があるのも特徴です。一般的にプラーク付着量は多くなく、患者さんによっては、口腔内の歯周病と関連性の高い細菌(A.actinomycetemcomitansやP.gingivalis)の存在比率が高いと言われています。罹患(りかん)率は0.05〜0.1%で、プラーク中の口腔細菌が主たる原因ですが、疾患の発症と進行には遺伝的要因が関与していると考えられています。その詳細についてはまだ十分に解明されていません。治療には歯周基本治療、歯周外科手術、歯周組織再生療法が行われています。発見が遅れると早期に歯が脱落し、総義歯になってしまうことも少なくありません
歯肉炎自然発症ラット
実験動物においても歯肉炎を起こしやすいラットが存在します。1972年、大阪歯科大学で発見された、Wister-Kyotoというラットの系統では、自然に下顎前歯に歯垢が付きやすく、歯肉炎を起こすものがあります(ODUS/Odu)。同系統には、歯肉炎を起さない系統も存在し(Res)、これらの事実は歯周疾患の遺伝による影響を示唆しています。
一般的な歯周病と遺伝
一般的な歯周病は、遺伝的要因が関係するものの、同時に生活習慣(口腔清掃、喫煙、アル コール摂取など)も大きく関係するため、複合的要因が関係する疾患であると考えられています。歯周病に関係していると言われる遺伝子(Vitamin D receptor IL-1、IL-6、IL-10)について調べた研究がありますが、決定的な関連性を見出せていません。歯周病の遺伝子診断の研究も進んでいますので、将来的には遺伝子型に応じた治療計画というのも出て来るでしょう。 今後の研究の進展を待ちたいと思います。
まとめ
歯周病になりやすい人がすべきことは、毎日の口腔清掃の徹底と、禁煙、規則正しい生活です。また、定期的な歯の検診やクリーニングも、より頻繁に行うことが推奨されます。