健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
歯周病と新型コロナウイルス感染症重篤化との関係
歯周病と全身疾患との関係については、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、誤飲性肺炎、ある種のがんなど、これまでも幾度となく取り上げてきました。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、糖尿病、高血圧、心筋梗塞といった心血管障害などの基礎疾患あるいは高齢、肥満により重篤化しやすいことがこれまでの研究で明らかにされていますが、歯周病との関係はあまりわかっていませんでした。今年に入って、歯周病とCOVID-19の重篤化との関係を調査した研究が出てきており、注目されています。
歯周病がCOVID-19の重篤化に影響する?
研究論文(J Clin Periodontol. 48:483-491, 2021)では2020年2月27日から7月31日まで、中東のカタールで歯科記録がある18歳以上のCOVID-19陽性患者568人において、歯周病の程度とCOVID-19の重篤化との関係について調べました。
568人中40人がCOVID-19で合併症を伴った重症例であり、残りの528人は特に合併症もなく、重症化を示さず回復しています。歯周病の進行度は、レントゲンで確認できる歯の周りの歯槽骨が減少する度合いによって評価されました。性別、年齢、喫煙、糖尿病、肥満、その他の基礎疾患など、COVID-19の重篤化に密接に関係する要因は、統計的有意差を判定するうえで全て考慮、調整されました。
その結果、歯周病の進行度とCOVID-19による(1)合併症、(2)死亡、(3)ICU入室、(4)人工呼吸器の使用などの重篤化の各々について、全て統計的な有意差を持って関連性が見られました。すなわち、重度の歯周病を患っている人ほどCOVID-19が重篤化する傾向が認められました。一方で、歯周病がないか、あっても軽度の方は、COVID-19の重篤化率は低いことが明らかになりました。
この研究から考えられること
歯周病は、糖尿病、循環器疾患、慢性呼吸器疾患、がんなどの非感染性疾患と密接な関係があるとの研究が蓄積されてきています。これらの疾患はNCDs(Non-communicable diseases)と言われ、世界の全死亡における最大の死因として問題視されており、歯周病を軽視すべきではないと認識する人は医学、歯学会でますます増えています。
今回の研究で、歯周病がCOVID-19の重篤化のリスクファクターでもある可能性が示唆され、歯周病予防の重要性を再認識させられる結果となりました。日頃の口腔清掃の徹底と定期的な口腔検査および歯のクリーニングを継続し、全身の健康にもつなげたいものですね。