健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
歯科医院での新型コロナ感染リスクはそれほど高くない?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック宣言により、昨年の3月末から5月末まで、ワシントン州では緊急の治療を除いて原則、歯科診療中断となりました。当時は医療用のマスクやガウン、手袋などの防御具が不足しており、少しでも医科に供給するためとされていました。しかし、歯科診療で発生するエアゾール(固体または液体が分散し、霧状の微粒子となったもの)による新型コロナ感染の疑念がぬぐい切れていなかったことも要因のひとつと思われます。一方で、歯科受診を控えることで起こりやすいと言える歯周病の悪化は、むしろCOVID-19発症のリスクを高めるとする報告もあります。歯科診療における感染リスクについて、最近発表された興味深い研究がありますので以下に紹介していきます。
歯科医院での感染リスクを調査
オハイオ州立大の歯周病学講座を中心とした研究グループから発表された論文(J Dental Res 100(8):817-823, 2021)を要約してみます。
①調査方法
期間:2020年5月4日〜7月10日
対象:28人の歯科治療希望者。18歳以下、妊婦、抗生物質服用者、HIV感染者、COVID-19の感染歴または症状がある方は調査から除外した。
場所:オハイオ州立大学歯学部
②サンプル収集
唾液:1ミリリットル
歯科治療台で用いられる水:1ミリリットル
歯科治療によるエアゾールのサンプル:歯科医および助手のフェイスシールド、患者さんのエプロン胸部の表面、診療室内で歯科治療台から6フィート離れた場所から、それぞれ集められ、ウイルスの同定(RT-PCRという手法による)および細菌の同定(16S rDNAの解析による)が行われた。
③結果
(1)唾液と、エアゾールの各サンプルとの比較では、細菌の種類に明らかな違いが認められた。
(2)エアゾールの各サンプル中の細菌は、歯科治療台の水に認められた細菌と78%一致しており、残りの約20%は、唾液由来でなく、また水由来のものでもなかった(おそらく、空気中由来)。(
3)エアゾールの各サンプル中、唾液由来の細菌が検出されたのは、28人中8人にとどまっていた。
(4)参加者28人中、19人の唾液に新型コロナウイルスが認められた(無症状)が、エアゾールの各サンプルの中で検出されなかった。
調査結果から考察されること
歯科治療で発生するエアゾールの安全性については、いまだ議論の余地があるところだと思います。今回の研究によれば、そのエアゾールの発生源のほとんどは、歯科治療で使われる水である可能性が高く、唾液の比率は高いものではないようです。実際、新型コロナウイルスが確認された無症状の感染者であっても、治療後のエアゾールからウイルスは検出されませんでした。
まとめ
歯科医の感染率は1%程度と一般の人々と比べても高くはなく、また歯科医院でのクラスター発生もほとんど報告されていません。この研究もそれを裏付ける結果となりました。しかし、サンプル収集時期は昨年の初夏とあり、デルタ株など感染力の強い変異ウイルスの比率が高くなっている現在とは状況が異なる可能性があります。今後も少しの油断も許されません。
当院でも、常に患者さんの安全に万全を期して診療に臨んでいます。気持ちを引き締めて、感染対策に取り組んでいきたいと思います。