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発掘された中世のヒトの歯に抗体成分〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

発掘された中世のヒトの歯に抗体成分

歯は身体の中でいちばん硬い組織で、死後も最後まで残ることは、皆さんもご存じでしょう。災害時など、組織の損傷が激しい遺体の身元確認にも歯は重要視されています。個々に異なる歯並び、顎の位置、虫歯の治療跡などから、指紋のように個人の特定に有効だからです。最近の研究で、歯は死後何百年が経過しても、内部に抗体を保持し続けることが明らかになりました。これは、歯が免疫研究に役立つ可能性を意味します。歴史のロマンを感じさせますね。

今、古代のタンパク質の研究に熱視線

こ の 研 究 は、英 ノッ テ ィン ガ ム 大 学の研究グ ループによる論 文(iScience, 2023; 107575 DOI:10.1016/j.isci.2023.107575)で発表されました。研究の背景には、パレオプロテオミクス(Paleoproteomics)と呼ばれる古代のタンパク質の研究分野が、古代学や進化学において注目を浴びていることがあります。

タンパク質は、遺伝子DNAよりも長期にわたり安定して残ることが多く、特に骨や歯といった、いわゆる硬組織に閉じ込められたタンパク質がその代表です。骨や歯の主成分であるコラーゲンなどの組織の構造をなすタンパク質は、16万年前の中国のミイラからも検出されています。このコラーゲンのアミノ酸配列を解析すると、進化の過程などが推察できるというわけです。研究の方法と結果 今回の研究の目的は、中世のヒトの歯の中から抗体が抽出できるかどうかを調べることです。2016年に発掘された中から、3人の歯石の少ない古代人(推定:13~15世紀の女性2名、男性1名)が選ばれました。各々の臼歯部の歯を取り出し、エナメル質、象牙質、歯髄など歯の全部を用い、液体窒素の中で粉砕。粉末にしたものを低温下でエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液に入れてカルシウムやリン成分を溶かし、抽出した全タンパク質から、抗体成分を吸着させるプロテインG という物質を使い、IgG抗体を検出しました。

このIgG抗体は、ウエスタンブロットという方法で、ヘルペスウイルスのひとつ、EBウイルスの抗原と反応。EBウイルスは、ヒトにおける最もありふれた感染症ですが、伝染性単核球症という疾患を引き起こします。今回の研究により、13~15世紀にはEBウイルスが存在し、人類はEBウイルスに感染していたと考えられます。

まとめ

化石中の歯には、抽出可能な抗体やタンパク質が残っており、これらを調べれば、人類の進化や当時の感染症の状態など、わかっていなかったことも解明されるかもしれません。今後、歯は考古学の分野でも重宝されそうです。

中出 修
福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748