健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
肥満と歯周病
州によって事情は異なりますが、アメリカ全体で言うと、成人で肥満に分類される人の割合が41%と非常に高いことがよく知られています。一方、日本で肥満に分類されるのは成人男性の30%、女性では20%。肥満は、2型糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞のリスクを高めるなど、健康面、社会経済面でのマイナス面が指摘されています。
歯科においても、肥満の人は歯周病になりやすいとの研究結果がいくつも発表されており、筆者も臨床での経験上、そう感じています。今回はそうした研究の一部を紹介したいと思います。
これまでの研究例
①臨床統計学的研究:20~59歳の日本人241人(女性172人、男性69人)を肥満の程度により4段階に分類し、歯周病との関係について調査したところ、肥満の程度と歯周病の程度には統計学上、有意な相関関係が見られた。(N Engl J Med 1998; 339:482-483)
②肥満と口腔細菌:成人女性の肥満度と唾液中の細菌における種類の変化を調べ、肥満度が増すと唾液中のある種の細菌が増えることを明らかにした。(J of Dent Res 2009; 88 vol. 88; 519-523)
③TNF-α血中濃度との関係:肥満になると腫瘍壊死因子-α(TNF-α)という物質の血中濃度が上昇。TNF-α値の上昇が、歯周組織の炎症の悪化と骨破壊につながり、歯周病を悪化させる可能性がある。歯周病を治療するとTNF-αの血中濃度が低下した。(J Periodontology 2003; 74: 1231-1236)
④ラットによる実験:実験的に歯周病を起こしたラットに高脂肪食を与えると、正常食のラットと比べて歯周病が悪化し、歯槽骨の骨吸 収 が 進 ん だ。(J. Appl. Oral Sci. 2012;20 2•https://doi.org/10.1590/S1678-77572012000200016)
肥満で歯周病が悪化する要因とは?
肥満が歯茎に影響を与えるメカニズムの一端を解明するため、生後8週のラットを用いて、肥満が血中のマイクロRNAに及ぼす影響について調べた研究(J Periodontology 2022 ;57:502-509)もあります。
高脂肪食を与えた8匹のグループと通常食を与えた8匹のグループについて、8週間後に評価しました。高脂肪食のグループにおいて、歯を支える歯槽骨の溶け具合を比べたところ、平均で0.16ミリも歯茎が下がっており、また4種のマイクロRNAの発現が如実に増えていることがわかりました。
ちなみにマイクロRNAとは、ゲノム上にコードされ、20から25塩基長の微小RNAとなる機能性核酸のこと。他の遺伝子の発現を調節するという、生命現象において重要な役割を担っています。4種のマイクロRNAの標的となる遺伝子を解析すると、「P2ry13」という骨代謝に関わる遺伝物質(メッセンジャーRNA)の低下に関与していることが判明しました。
論文の筆頭著者である岡山大学予防歯科の丸山貴之助教は、肥満によるP2ry13の減少が歯槽骨の減少にも関わり、歯周病悪化を引き起こすと考察しています。
まとめ
太り過ぎは、糖尿病、高血圧などの健康リスクを上げるだけでなく、歯周病を悪化させる要因のひとつです。気を付けたいものですね。