健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
麻酔なしのレーザー治療で虫歯が治る?
レーザーでの虫歯治療は30年以上前から行われていますが、歯科全般への普及はまだ先のようです。今回は、レーザーによる虫歯治療の最新事情をお伝えしたいと思います。
麻酔ができない患者には夢のような治療法だが……
実は、筆者はレーザーによる虫歯治療に懐疑的でした。今から20年以上前、日本の歯学部に研究者として在籍していた頃、知り合いの歯科医からの依頼で検証したことがあります。抜いた歯をスライス状にしてレーザー(炭酸ガスレーザー)を当て、標本を作り、走査型電子顕微鏡で観察しました。
虫歯のレーザー治療のメリットは、麻酔が要らず、虫歯をレーザーで蒸発(蒸散)させて無菌化してから詰め物ができることです。恐怖心が強いなどの理由で麻酔の注射が打てない方には、夢のようなうたい文句でした。しかしながら、その観察結果はとても満足できるものではなかったのです。
歯の表面のエナメル質は変色もほとんどなく、まあ良かったのですが、内部の象牙質は黒く焼け焦げ、顕微鏡で見ると無数のヒビが走っていました。これは非常に歯に好ましくない所見でした。象牙質が焼け焦げたのは、レーザーによる熱の発生が強度であることを意味し、急激な歯の乾燥が起こってヒビを生じさせたと解釈できたからです。熱に弱い、歯の神経(歯髄)はひとたまりもなくやられてしまうでしょう。
現在のレーザーでの虫歯治
そのレーザーのテクノロジーも年々進化し続けています。日本では2008年、レーザーでの虫歯治療が保険で認められました。これはエルビウムヤグレーザーという種類のレーザーを使った治療です。前述の炭酸ガスレーザーなどと比較すると、熱の発生が少なく、深部にまでレーザーが及ばないという特徴を有します。注水技術も進歩し、熱の発生を最小限に抑え、虫歯治療に有効だとする論文がいくつもあります。
ただ、レーザーで麻酔なしの虫歯治療は可能という論文は多いのですが、麻酔をして削る通常の歯科治療に比べて、レーザーが格段に優れているという論文はほとんど見当たりません。今後、さらに調べていく必要があると感じました。
虫歯治療以外にもレーザーを応用
近年注目されているのが、ネオジウムヤグレーザーです。虫歯の治療ではなく、歯の結晶構造を変えることにより歯を強くするレーザーとして有効だとする論文が多数あります。前述のエルビウムヤグレーザーもまた、虫歯治療だけでなく、いびきの軽減ほか、睡眠時無呼吸症候群の治療において手術と同程度の効果があるとする論文が最近発表されました。これは喉(軟口蓋)にレーザーを照射し、狭くなった気道を手術なしで治療できるというものです。
ほかにも、口内炎の疼痛 緩和、組織の切開、歯周ポケット内の消毒、歯石の除去、歯の神経治療における洗浄など、レーザーの種類、条件設定により、さまざまな臨床応用がなされています。
まとめ
レーザーによる虫歯治療は、まだまだ全てに適しているとは言い難い段階ですが、麻酔が難しい場合など、一部の歯科治療には恩恵があると考えられます。今後に期待したいものです。