今年に入ってたくさんの人から同じような話を聞く機会が増えたので、今回はこれについて話そう。彼らに共通しているのは、前から聞こえていた耳鳴りが寝ていても目が覚めてしまうほど大きくなり、耳の中が痛くなったり、ツンと突っ張るような感覚を受けるというものだ。先週来られた奥さまもこの症状を訴えた。まだ20代の後半で、過去に一度同じようなことを経験しているらしいが、何が原因か分からないそうだ。
さっそく耳の中を覗いてみた。鼓膜がまったく見えない。小さい耳穴の真ん中で、耳垢がしっくいで固めたかのような状態になっていた。専門のツールを使ってもほとんど取れないほどしっかり固まっていた。こんな風に固まっている場合、鼓膜がどのような状態なのかを把握してから除去手段を考える必要がある。鼓膜検査器で測定すると、右耳の鼓膜は正常の範囲で動いていることが分かった。耳垢が完全にびっしりと鼓膜についているわけではなく、どこかに隙間があるようだ。一方、左耳の鼓膜はまったく動いていなかった。耳垢が耳穴を完全にふさぎ、たぶんその耳垢が鼓膜にこびりついているのだろう。彼女は左耳だけに前述の症状を訴えたので、症状と検査結果が一致したことになる。鼓膜とは薄い丈夫な膜で、そこに異物が当たると痛みを感じる仕組みになっている。
耳垢除去には、水を使った方法を行うことにした。理由は2つ。長年耳垢を蓄積した耳穴は非常に敏感になっていて、吸引や耳かきのようなものを使った場合に痛みを感じやすいということと、耳垢を取る作業が鼓膜を引っ張る可能性があるということ。その結果、右耳の耳垢の除去は完了したが、左耳は途中で時間切れとなって、数日後に再度行うことになった。右耳の奥の耳垢は真っ黒に変色していた。それでも、左耳の耳鳴りは以前よりましになり、痛みも突っ張るような感覚もなくなったとのことだ。あともう一回の施術で、左耳の鼓膜を拝むことができる。数日の間、耳垢を柔らかくする薬を使ってもらうことにした。
帰る間際に「Q-tip(綿棒)も使ったほうが良いでしょうか」と、付き添ってきたご主人が質問された。「何のために使うのですか」、と聞くと、「耳垢を取るためです」という答えが返ってきた。私は、彼女がこれほど硬い耳垢を作ることができたのを不思議に思っていたが、この答えで合点がいった。生成された耳垢を何年、何十年もかけてQ-tipで中に押しこみ続けていたのだ。
以前の記事にも書いたが、耳穴にQ-tipを突っ込むのは止めることをお勧めする。Q-tipの会社は何をしているんだと思ってパッケージを見てみると、「耳穴にはQ-tipを入れないように」という但し書きがあることに気づいた。でも、多くの人が今日も Q-tipを耳に入れている。
[耳にいい話]