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補聴器を初めて装着した日

先月末に来院した60代前半の男性は、部屋に入ってすぐ、私と会うことを楽しみにしていたというような言葉を発してくれた。通常、患者は何らかの問題を聞いてもらうために来院するので、困ったような顔や、緊張したような顔をしていることが多い。が、彼は満面の笑顔で自分の問題を語り始めた。もう10年以上も耳が聞こえにくく、左耳にシャーという音が常にしていた。今までに3カ所以上で聴力検査を受けたが、聴力はほぼ正常で安心して良い、補聴器を着けるほどのレベルではないと言
われ続けてきたようだ。安心しろと言われても、聞こえにくいという問題は続き、どうにかしたいのに何も提案してくれないという状況に不満を感じていた。常に、相手の口をじっと見ながら話をするので、非常に疲れるとも話していた。

たまたま、当院のウェブサイトで彼と同じような悩みを持っている人のレビューを読んだそうで、私に大変期待していることがわかった。夫人も横で相槌を打っていて、仲の良い夫婦のようだ。話の途中で、彼が左耳を簡単に動かせることがわかり、話が大いに盛り上がった。長年、40人以上もの社員のマネジャーをしてきたが、自然災害時に緊急対応することがよくあり、多大なストレスを抱え、睡眠薬、不安障害用の薬、高血圧の薬を常用し、早期の前立腺がんを様子見している状態という。初診の前日に夫人と話し合い、同じ会社で別の職務に就けるよう依頼する決心をしたと言い、すっきりした晴れやかな顔をしていた。

聴力検査の結果、左耳は高音のみ少し難聴で、あとは騒音による難聴の兆しが見て取れた。正常な聴力では通常出ないような結果が数点あることも判明した。薬の長期間常用、ストレスの蓄積が結果
に出ていた。右耳は鼓膜の動きが異常で、そのために音が適切な音量で脳まで達していないという結果になった。この日は、前日の大決断でストレスが軽減したためか、今まであった耳鳴りが聞こえなかったので耳鳴りテストはしなかった。耳鳴りは、聴力が落ちても起こるし、ひどいストレスがあっても起こる。

この日、貸し出し用の補聴器を装着してみるかと尋ねると、ぜひやりたいと即答だった。補聴器を通して私の声を聴いた瞬間、「Oh my god!」という言葉を連発していた。くっきり声が聞こえて、体を乗り出さなくても、相手の口をじっと見続けなくても、楽に会話ができることに感動している様子がわかった。返却の日、部屋に入った途端、補聴器がとても助かったと言ってくれて、即購入となった。まるで、大好きなおもちゃに出合った子どものように、うれしそうな表情を見せてくれて、応対している私まで楽しい気分になるセッションだった。

ワシントン州と米国認定のオーディオロジスト。ワシントン大学で Speech and Hearing Sciences: Communication Disorders で学士号、Doctor of Audiology プログラムで聴覚博士号を取得。2012年にPAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) を開業。 PAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) 1605 S. Washington St. Suite 6, Seattle, WA 1370 116th Ave. NE, Suite 201, Bellevue, WA ☎ 425-455-0526