前回は70歳でバリバリ仕事をしている女性のことを書いたが、今回は70代後半のパワフルな男性を紹介しようと思う。すでに引退しているのにも関わらず、毎日トラックで走りまわっている彼は、依頼をされればどこにでも出かけて、お願いされた木を切り倒して、暖炉などで使えるような薪にしてあげたり、そのまま持ちやすい大きさの丸太にして持って帰ったりするそうだ。作業は一人でやっているそうで、トラックに積み込こむのも自分でやっていると自慢げに言ってくれた。一週間に4日間はチェンソーを使うため、耳栓はしているとのことだった。常に身体を動かしていることが好きだと言う。姿勢も良く、話し方や声にも若さが感じられた。頻繁に夫婦で外食もするそうだ。
この男性も保険会社からの通知で、保険会社が補聴器代金の一部を負担するので、安価に補聴器を購入することができるということを知った。この5年間、徐々に聞きにくいと感じるようになっていた。特に、奥様に何度も聞き返したり、電話で受ける注文に時間がかかったりしていると話してくれた。
彼の聴力検査結果は、通常の老人性難聴と少し異なり、中音だけが正常で、低音と高音は難聴というものだった。チェンソーの使用で耳が悪化したような兆候はなかった。低音が難聴ということにひっかかり、いろいろ聞いてみたが、中耳関係の問題が過去にあったわけでもなさそうだし、ペニシリンにアレルギー反応する以外は、アレルギーもないとのことだった。身体はいたって健康だそうだ。ストレスはと尋ねると、「全くない」と即座に快活に回答があった。やりたくないことは自分の課題リストの後ろの方に押しやっているからストレスがないんだ、と説明してくれた。「それは良いね」と私が応じたら、奥様が「そういうものは全て私がお願いしたものでしょ?」と発言した。「そういうことなら、ちゃんとしないとね」と私が奥様の味方をして発言すると、「さっきまで僕のやり方を支持してくれていたのに……」と彼が軽く不満を漏らした。3人で笑った後、改めて、外食について聞いてみた。一週間の半分以上は外食で、奥様の話によると、食べ物が見えなくなるほどドレッシングやソースをたっぷりかけて食べるのが好きだということが分かった。それが塩分摂取過多の原因となって、低音難聴を引き起こしているのか分からない。その関連性は薄いように思えたが、ドレッシングやソースや調味料を少し控えめにかけるように勧めてみた。
次に来院したときに、低音の聴力に変化があるかどうかチェックしてみようと思う。聴力が改善されれば良いが、改善されなくても、奥様も心配しておられたので、ドレッシングの量が減る口実になって良いとは思う。
ご年配でも元気で毎日を過ごしている人たちと話をすると私も楽しくなり、気分が若返る。彼のように、年をとっても運転してどこでも行くことができ、年相応に見えないような行動をとりたいものだ。
[耳にいい話]