Home 美容・健康 私たちの命を守るヘルスケア(旧・女性の命を守るヘルスケア) 体験談「子宮頸がんは私にと...

体験談「子宮頸がんは私にとって試練と使命を与える出来事」〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

体験談「子宮頸がんは私にとって
試練と使命を与える出来事」


私の人生をがらりと変えてしまった試練、それは2021年、新型コロナのパンデミック最中の子宮頸がんの告知に始まります。今は根治し、元気にやっておりますが、あの時の驚きと絶望は忘れられません。これから家族を持ちたいと思っていた矢先、32歳にして子宮全摘の手術と放射線治療が必要となりました。
妊娠できなくなった身体、治療の副作用と再発を常に意識しながらの生活……。21歳から一度も子宮頸がん検診を欠かしたことがなく、健康に自信があったにもかかわらず、突然の発症。正直、「なぜ私が?」という気持ちがぬぐえませんでした。また、罪悪感や自責の気持ちが芽生え、一部の家族、友人以外に病気のことを打ち明けられずにいました。
この経験から生まれた使命、それは子宮頸がんを取り巻く状況と人々の認識を変えること。子宮頸がんは決して珍しい病気ではないのに、正しい情報が広まっていません。それどころか、さまざまな誤解や偏見が正しい予防の機会を逃す原因にさえなっています。
私はがん発覚当時、この病気に対する知識がほとんどありませんでした。自分が予防できたかもしれない病気にかかってしまい、無知だった自分に怒りを覚えました。世界的に子宮頸がん撲滅が叫ばれる中、日本では子宮頸がんの患者数が増えている状況を知り、なんとかしたいと思いました。この悔しさをバネに、現在は啓発活動に携わっています。
私がこの体験を通してお伝えしたいのは2点。ひとつは、皆さんに子宮頸がんという病気について知ってもらい、ひとりでも多くの方の予防につながってほしいということです。私の場合は、定期的に受けていた子宮頸がん検診のおかげで、ステージは1B2期と早期発見できました。それでも、子宮全摘という人生を大きく変える手術、治療が必要でした。当時は日本企業の駐在員としてアメリカで忙しい日々を送っており、コロナや仕事を言い訳に検診を先延ばしにしていたら、もっと病気が進行していたかもしれません。
もうひとつは、今この病気と闘っている方に、孤独感や罪悪感を抱いで欲しくないということです。子宮頸がんには誤解や偏見が付きもので、話題にすることがはばかられることもあるでしょう。多くの子宮頸がんは、原因となるヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus/HPV)に、主に性交渉から感染して発症します。しかし、これはほとんどの人が一生に一度は感染するウイルスで、思ったより身近に存在します。そして、罹患してしまったことは誰のせいでもありません。私たちがよりオープンに、子宮頸がんやHPVについて話せるようになることが、近い将来、病気の撲滅につながると私は信じています。
まずは、自身の健康を第一に考え、適切な検診を受けることが大事。現在、闘病されている方、治療後の生活を送られている方は、この「FLAT・ふらっと」のようなサポート・グループに助けを求めてください。あなたはひとりではありません。

小郷杏奈 ■
2021年に子宮頸がんを経験。子宮頸がん患者アドボケートのグローバル・コミュニティー「Cervivor」に所属し、患者サポートや啓発活動に携わる。

婦人科がんの専門的立場から

子宮頸がんは「予防できるがん」です。子どものうちにHPVワクチンを接種すれば、がんになること自体を予防できます。また、「がんの早期発見」が可能なのも特徴。定期的な子宮頸がん検診として、細胞診(Pap test)やHPV検査を欠かさないことが大事です。

杏奈さんのように、検診を受けていても、手術や放射線治療が必要な子宮頸がんになってしまうケースはあります。そのため、HPVワクチンと子宮頸がん検診の両輪での予防が求められます。また、HPVは子宮頸がんだけでなく、肛門や中咽頭(のど)のがんの原因になっていることもわかっています。男女共に関わる話であることを、ぜひ覚えておいてもらえればと思います。

鈴木幸雄■医学博士。婦人科腫瘍専門医。これまで多くの子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん患者における手術、化学療法を担当。がん予防に関する健康行動理論の構築をテーマに博士号取得。現在はコロンビア大学メディカルセンター産婦人科博士研究員として臨床研究に従事。産婦人科専門医・指導医、女性ヘルスケア専門医、細胞診専門医、腹腔鏡技術認定医でもある。横浜市立大学産婦人科客員研究員。在米日本人の生活と医療を支えるNPO、FLAT・ふらっとの代表メンバー。

FLAT・ふらっと
2013年から続く乳がん・婦人科がん患者サポート団体のJapanese SHAREが、2023年4月1日より、ニューヨークを拠点とした非営利団体、FLAT・ふらっとに活動の場を移行。乳がん・婦人科がんのほか全てのがん患者、高齢者、スペシャルニーズのある子どもの保護者を対象とし、在米日本人コミュニティーを健康と医療の面から支える。