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がん患者体験記「米国で突然がんになった」後編〜私たちの命を守るヘルスケア

がん患者だけでなく、悩める人たちの心身の健康をサポート。現在のアメリカの医療環境で今、私たちができることを探ります。

がん患者体験記
「米国で突然がんになった」後編


前編では米国での突然のがん告知に続き、手術の結果、進行が早く予後が悪いがんだと告げられたと書いた。入院先の医師たちは、本当に優しく、私のいろいろな選択を否定することなく接してくれた。手術の数日後には、執刀医とは別の医師、看護師、ソーシャルワーカー、牧師などから構成される緩和ケアチームが用意された。私は特定の宗教を信仰しているわけではないので、牧師は不要だと告げたところ、すんなり受け入れてくれた。緩和ケアチームのミーティングには、私だけでなく友人たちも参加できた。
入院患者の朝は早い。朝4時頃に起こされ採血。その結果を見て医師が病室に来るのは朝食前である。朝食はゼリー2つとカリフラワースープ。まずいと先生に文句を言うと差し入れの許可がおり、友人が近くのスーパーで買ったものや手作りのお弁当を届けてくれた。40cm近く腹部を切開したためか、1週間前には当たり前にできていたことが全くできなかった。リハビリで歩行訓練をし、階段の上り下りの練習もした。小さな合併症で入院は延びたが、それでも1週間で退院した。
確定診断が出て両親に伝えると、すぐにでも日本に帰国し、治療をするよう言われた。だが、私は迷っていた。最先端の治療はアメリカの方が選択肢が多く、日本でまだ認可されていない治療方法もアメリカにいれば試せる。しかし、現実問題として、これからの治療に一人で耐えられるのだろうか。それに今後も長く続くだろう治療に、友人たちの手を煩わせたくないとも思っていた。
最終的には家族のいる日本に帰って治療を受けることに決めた。アメリカに残る選択をして、新型コロナウイルスの状況がさらに悪化し、家族に会えずに私の人生が終わってしまったら、日本にいる私の家族たちは後悔して立ち直れないかもしれないと思ったからだ。日本に帰って治療を受ける考えを医師に伝えると、医師も賛成してくれた。
アメリカの病院から自分の医療記録を入手するのはとても簡単だ。書類にサインするだけで全ての情報がすぐにもらえる。新型コロナウイルスの影響で窓口対応が困難な時期だったが、帰国前に100ページ以上にのぼるカルテ情報はオンラインで送ってくれ、また、CTスキャンの画像データはCDにして郵送してくれた。さすがに英語で書かれた大量のカルテ情報をそのまま日本の医師に渡すのは迷惑だと思い、簡単に自分で要約、翻訳し、セカンドオピニオンを受診するときに持参した。
セカンドオピニオンの過程で、手術時の検体をアメリカから取り寄せ、再度、日本で病理診断をすることになった。その結果、アメリカでの当初の見立てほど、予後は悪くないがんだとの再診断がでた。セカンドオピニオンで診断が変わるとは思っていなかった私はかなり驚くとともに、アメリカでセカンドオピニオンを受けなかったことを後悔した。
私の抗がん剤治療は8回で、最初の1回は 2泊3日の入院だった。アメリカと違って日本の病院に入院する時は手ぶらというわけにはいかない。病院内を歩くための内履き、お箸、コップ、着替えの下着など、ちょっとした旅行並みの荷物が必要である。病院内で洗濯も可能だったが、パジャマやタオルはレンタルし、その当時、病室にはWi-Fi環境がなかったので、ポケットWi-Fiもレンタルした。
そして、幸運なことに、日本の医師の診断通り、抗がん剤治療がうまく行きNED(ノー・エビデンス・オブ・ディジーズ:疾患の所見がない)という状態に回復。10カ月後にはアメリカに戻り、翌月から仕事に復帰できた。新型コロナウイルスで世界が翻弄される中、アメリカで突然がんになった私だが、幸運なことに素晴らしい友人、家族に恵まれて、がんと戦うことができた。
米国という異国の地で、がんなどの病気に直面した日本人を支える「FLAT・ふらっと」を立ち上げる機会に恵まれた時、私がこの活動をすることは、友人たちへの恩返しにもなるのではないかと思った。そして、私の友人たちが私に手を差し伸べ、助けてくれたように、「FLAT・ふらっと」が在米日本人の皆さまの健康を助け、寄り添う役目を果たせることを切に願っている。
清水佐紀 ■

FLAT・ふらっと理事。薬学学士、医学博士。東京医科歯科大学大学院にて医学博士を取得後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校AIDSインスティチュートでエイズの遺伝子治療開発の研究に従事。現在はベイ・エリアのバイオテック企業で遺伝子治療研究者として勤務。

FLAT・ふらっと
2013年から続く乳がん・婦人科がん患者サポート団体のJapanese SHAREが、2023年4月1日より、ニューヨークを拠点とした非営利団体、FLAT・ふらっとに活動の場を移行。乳がん・婦人科がんのほか全てのがん患者、高齢者、スペシャルニーズのある子どもの保護者を対象とし、在米日本人コミュニティーを健康と医療の面から支える。