以前寄稿した、瘢痕(はんこん)組織についてのコラム(2015年12月)で、アディージョン・ブレーキング・テクニック(ABT:Adhesion Breaking Technique)について紹介しました。今回は、そのABTと治療の仕方や効果に類似点が多く見られるマイオファーシャル・リリース・テクニック(MRT:Myofascial Release Technique)について話したいと思います。
その前に、瘢痕組織について簡単に説明しておきましょう。瘢痕組織とは、けがをした後に筋肉(主にすじ)や関節の周辺に癒着ができて、痛みや可動範囲減少の原因になるというものでした。瘢痕組織について取り上げたコラムでこの治療法について書きましたが、今回紹介するMRTは、癒着以外にも、長年の筋肉のコリや筋腹のけいれん(Spasm)、または慢性的な筋肉痛などに有効的だと言えます。
患者さんの例を挙げます。左肩と左側の首、そして肩甲骨の周辺がいつも凝っていて鈍痛がある症状を改善するために治療をしました。右下の写真はその様子をクリニックで撮ったものです。手で直に施術をする場合もありますが、写真のように金属製の道具を使い、筋線維に沿ってゆっくりと筋肉をほぐしていく場合もあります。ABTが癒着のある部分を集中的に反復してほぐすのに比べ、MRTは大きめの道具でゆっくり、じっくりと広範囲にわたってほぐしていくのが特徴です。正しい筋線維の方向に沿ってほぐすのが重要となります。良くない姿勢や生活習慣、または職業によっては、どうしても偏った体勢で仕事をしなくてはなりません。そんなときには脊椎の矯正だけでは、姿勢の改善に限界があります。理由としては長年の背中のゆがみにより筋肉の発達が不均等(Muscle Imbalance)になるからです。MRTを施すとまず、血行促進の効果があり、血液が運ぶいろんな体液やリンパ液の流れが良くなります。よって、炎症(Inflammation)を減らす役割もしますし、痛みやプレッシャーを取り除くのに役立つと言われています。
冒頭にも書いたように、ABTとMRTはテクニックに類似点が多く、この2つをミックスした治療法もあります。また施術者によって、やり方が異なる場合もあるでしょう。患者さんのケースによっても施術の体勢や力加減が変わってきます。興味のある方は1度、試してみてはどうでしょうか。