SCFE(Slipped Capital Femoral Epiphysis)、日本語では大腿骨頭すべり症という症状について、聞いたことはありますか。ない、という方が多いと思います。なぜならこの病気は、主に8歳から15歳くらいの年代のお子さんに起きる病気で、その確率は1/10,000と非常にめずらしいからです。今までのコラムでは一般的かつ大衆的なけがについて紹介してきましたが、今回はSCFEについて
書きたいと思います。その理由としては、この病気が統計的に診察の段階で最も見逃しやすいものだからです。また、「SCFE」とネットなどで検索しても、自分の子どもとは関係がないだろう、と思い込みがちです。
この病気は名前の通り、股関節に密着している大腿骨の頭の部分(成長板)が骨折してすべっていきます(下図参考)。肥満の男の子に多いのも、代表的な特徴と言えます。それは、まだ成長中でもろい股関節の成長板に重い体重が負担をかけるのと、子どもながらに糖尿病や腎臓病、または成長ホルモンなどの影響で股関節が骨折するというものです。
図を見ると、とても深刻な感じで、見逃すはずがないと思われるでしょう。しかし、この病気になった子どもたちはかなりの間、日常生活に支障が出ないので、発見が遅れる場合が多いのです。また、私が実際に出会ったSCFEの患者さんは、バレエをやっているという女の子と、背の高い陸上部の少年で、どちらもとても痩せていました。また、スポーツ万能&練習熱心でもあります。
ご両親の話によれば、練習のし過ぎで、いつもあちこち痛いと言っていて、いつものことと2カ月ほども放置していましたが、さすがに痛みがひどいので来院した、とのことでした。股関節を骨折するというけがなのに、初期の症状は一定的ではなく、股関節よりも太ももや膝が痛いという症状が多いのも見逃しやすい原因です。レントゲンを撮ると骨が折れているのが一目瞭然だったので、整形外科医のクリニックで手術することになりました。
以前働いていた病院でもSCFEの患者さんがいて、ひどい膝の痛みを訴えていたので膝のレントゲンを撮ったのですが、膝の骨と関節は異常が見られず様子を見ることになり、発見の遅れにつながりました。最初に8歳から15歳くらいの年代と書きましたが、もっと幼い3歳から5歳でも症例があります。もし、子どもの歩き方がおかしい、足を引きずる、股関節が異常に硬い、などの症状があったら、年齢や体格に関係なく病院へ行くと良いでしょう。