日本では、謙虚は美徳と考えられています。「そのバッグかわいいですね」と褒められても「安物なんですよ」と答える。頑張って準備したけれど「まだ完全ではないんですが……」などと、プレゼンの前に付け加えてしまう。日本人同士の会話では、よくあるやりとりです。しかし、アメリカにおいて謙虚さは、自信のなさを表しているように受け止められることがあります。
Aさんはチームミーティングで報告を上げる際、「まだ、まとまっていないんですけれど」と言って報告をし始めようとしたところ、上司に「では、出来てから報告してくれ」と言われてしまったそうです。本当はその日のミーティングのために十分な時間を費やしていたのですが、謙遜したために発言する機会さえも失ってしまったのです。Aさんはこの経験から、「アメリカ人と仕事をするときは、こちらが傲慢でいるくらいでちょうどいいのかも?」と仰っていました。
Aさんがこう言ってしまう気持ちもわからなくはないのですが、「謙虚さをなくして傲慢でいること」がアメリカで生活する上での解決策だとは思えません。例えば、日本人同士でも、どんなに褒めても「そんなことないですよ。自分なんてまだまだです。」などと謙遜しすぎる人には良い印象を持たない場合もあります。「全然勉強してないから~」と言いつつ実は猛勉強してテストで良い点を取る人をイメージするとわかりやすいかもしれません。行き過ぎた謙虚さは、嘘をついているのと同じともいえます。だからといって傲慢に「自分はこれだけ頑張ったんだ。 あなた達とは違うから。」と出られてしまうと、良い印象は持てません。
日本人で「アメリカ人の押しの強さが嫌だ」と仰る方がいらっしゃいます。それは、押しの強さが傲慢に感じられてしまうからだと思います。では、自信のある人と傲慢な人の違いは何でしょうか? ハーバードビジネス大学の教授クレイトン・クリステンセンは、「高い自尊心がある人は謙虚になれる。他に対して傲慢な人は、他人を引きずりおろすことでしか、自分に自信が持てない」と言っています。
プレゼンで「まだ、まとまっていない」と言ってしまうのは、何か不備があった際の言い訳を用意しているとも受け止められます。自信があれば、その必要はないはずです。では、自信がある人の対応はどういうものでしょうか? それは、プレゼンの後で「意見、質問は遠慮なくどうぞ」と伝え、異論・反論を受け入れる謙虚さを示すことです。それが、懐の深さや、余裕のある態度として受け止めてもらえる要素になります。
日本人的な謙虚さが身についてしまっている方は、まず褒められたら、謙遜する前に「ありがとう」と言うことから試してみてください。自己評価が少しだけ上がり、ちょっと自信がつくと思います。