シアトル駐在日誌
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
取材・文:磯野愛
#27 新田 一朋 ◾️石川県出身。趣味のひとつと言えるほどビールが大好き。「州内のクラフトビールを全制覇したい!」という夢を持つものの、季節ごとに新商品が続々と登場するので、なかなか追い付けないでいる。中でもお気に入りはフリーモント・ブリュワリーの「ラッシュ IPA」。
生物化学専攻で大学院まで進み、故郷である石川県の特産品、漆塗りの「漆」に含まれるたんぱく質や酵素を研究していました。その成分分析などの研究経験を生かして地元の水産加工会社、株式会社スギヨに入社。研究開発部に配属となり、およそ12年間、新商品の開発などに携わりました。スギヨは、世界で初めてカニカマを世に送り出した会社で、1972年発売の「かにあし」という商品が、カニカマ第1号です。現在では全国共通の一般名詞となったカニカマですが、石川県では弊社の定番商品「ロイヤル・カリブ」に由来して、「カリブ」と呼ぶ人もたくさんいます。研究開発部では、数あるカニカマ製品の中でも「香り箱」という、最高級スケトウダラのすり身を使った看板商品を担当していました。
そして2015年8月より、スギヨUSA(SUGIYO U.S.A., INC.)に赴任。勤務先の工場と自宅があるのは、シアトルから車で北に1時間半ほどのアナコーテスで、日本からの駐在員は3名います。私は製造・品質管理・研究開発部門のマネジャーを務め、新人からベテランまで約60名の従業員が24時間稼働の工場でトラブルなく生産することができるように、工場内を走り回る日々です。アナコーテス工場では多種類のカニカマを製造していますが、売れ筋は「アラスカン・スノー・レッグス」という、味も形も本物のカニに近付けた高級価格帯の商品です。業務用から一般用まで広く流通しており、セーフウェイなどのスーパーマーケットでは鮮魚売り場にて取り扱われています。味の微妙な調整を繰り返しながら研究を重ね、アメリカ人の舌に合った味付けに仕上げており、おかげさまで売り上げは絶好調! 例年はホリデー・シーズンからスーパーボウルくらいまでが販売のピークですが、2月後半の今も好調にキープしたままでいます。
着任早々は、やはり言葉の壁があり、従業員にこちらの言いたいことがなかなか正しく伝わらず、コミュニケーションに苦労しました。また、特に若い人たちはなかなか定着しないこともあって、常に発生する欠員の補充や新人へのトレーニングも大変です。そんな中でも、34年前の工場設立当時から働くベテラン従業員が、ほかのメンバーをまとめながらサポートしてくれるので助かっています。時にはピザを大盤振る舞いするなどしてみんなの士気を高め(?)ながら、お客さまに求めていただける商品を確実に生産できるよう努めています。
アナコーテスは田舎ですが治安も良く、生活に必要なものは全て手に入りますし、時間がゆっくり流れていてとても良い街です。一軒家を借りていて、夏場の草刈りは大変ですが、大きな杉の木が3本そびえる広大な庭もあります。9歳と6歳の娘がシアトル日本語補習学校に通っているので、毎週土曜日にはベルビューに家族で出て来ています。子どもたちが勉強している間に、親たちは気分転換も兼ねて宇和島屋やトレーダー・ジョーズでひたすら買い出し。今回の海外駐在をいちばん喜んでくれた妻は、自宅からオンラインで英会話の先生をしています。家族みんなそれぞれに、自分たちのことに一生懸命でいてくれています。
間もなく日本に帰任しますが、英語もそこそこ話せるようになったので、仕事でもプライベートでもたくさんの国に行ってみたいですね。個人のツイッターで自社のカニカマに関するコメントをつぶやいたところ、遠く離れた東海岸からも、たくさんのお客さまから励ましの声をもらい、本当にうれしかったです。現在、スギヨの海外拠点はアナコーテスにしかありませんが、自慢のカニカマを世界中の人に食べてもらえるよう、新しい拠点の立ち上げにもぜひ挑戦してみたいと思っています。