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NYKバルク&プロジェクト 酒井孝彰さん

シアトル駐在日誌

アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。

取材・文:磯野愛

酒井孝彰さんロングビューにて積み荷作業中の船上にて

#26 酒井 孝彰こうしょう ◾️愛知県出身。2008年NYK グローバル・バルク(現NYKバルク&プロジェクト)入社。2017年1月よりシアトル駐在となる。業界ではポート・キャプテンと呼ばれる職種だが、船が波に揺れる周期が乗務していた大型船と異なる小型の船では今でも船酔いをしてしまう。シアトル・シーホークスのワイドレシーバー、タイラー・ロケット選手の大ファン。

大学時代から船乗りに憧れ、航海士の資格を取得しました。航海士のキャリアは救命・消火設備の管理が主な業務の三等航海士から始まり、航海計画や計器に責任を持つ二等航海士、船の全体管理を任される一等航海士、そして船長(キャプテン)へと、業務経験と国家試験を経てステップアップしていきます。

現在、私は船長の資格を持っていますが、海運会社のNYKバルク&プロジェクトに入社した当時は三等航海士として船上勤務からのスタートでした。初乗船は2008年の6月で、アメリカから日本へ木材を運ぶ業務でした。その行き先はワシントン州南部のロングビューで、現在私が担当している港。こちらへの赴任が決まった時には、何だか深い縁を感じました。

シアトルに赴任する前の5年間は陸上での勤務で、船の安全や輸送品質管理など幅広い業務を担い、港のあるところにはどこへでも出かけ、年間100日以上は出張という日々。東南アジア、オーストラリアを中心に、時には西アフリカやパプアニューギニアなど「本当に船が入れるの!?」と不安なところには直接足を運び、入港計画から荷役のサポートまでを行いました。多忙を極め、せっかくの新婚旅行中にも電話がひっきりなしに鳴る始末。ちょうど子どもも生まれ、家族との時間がもっと欲しいと切に思っていたところでシアトル転勤の話が決まりました。

ここシアトルで勤務するNYKグローバルバルク・マリンサービス(NYK GLOBAL BULK MARINE SERVICE)は木材やバイオマス燃料、穀物など、NYKバルク&プロジェクトと輸送契約を結んだ荷主の大切な貨物を運ぶ際に技術的なサポートをする企業で、年間およそ120隻、月10隻の船積みを担当しています。

船の荷役スケジュールに合わせて、船の荷役作業の際には必ず港に足を運びます。また、船が安全に入れるかどうか、港そのものの調査に出向くこともあります。そのため、ここでも出張がとても多く、カナダのバンクーバー島には月2、3回、ロングビューにはほぼ毎週、車で出かけていて、年間の運転距離は3万5,000マイルを超えます。荷役作業を計画通りに進め、貨物の積載量を増やし、いかにその時間を短縮できるかが、ポート・キャプテンの手腕の問われるところ。それでも、荷役作業にトラブルはつきもので、そういう時こそ、船上での経験が生かせます。たとえば船のクレーンの調子が悪い場合、船上クルーと協力して原因を見つけなくてはいけないのですが、かつて船上のベテランエンジニアから学んだことに助けられています。また、荷主の要望に応えることは、時にクルーに無理を言うことに直結してしまいますが、海上勤務があったからこそ成り立つ、クルーとのコミュニケーションもあります。

冬場は太陽を求めてメキシコへ家族旅行

家族は大学の三期後輩に当たる妻と4歳の息子、もうすぐ2歳になる娘がいます。妻が社交的なおかげで、息子の幼稚園などを通じて交友関係が広がり、週末には幼稚園仲間と食事をしたり酒を飲んだりと楽しく過ごしています。わが家は本当に妻のバイタリティーに支えられていますね。また、すっかりアメリカン・フットボールの虜になってしまい、息子も最近は鋭いコメントを入れてきます。娘も、テレビからの歓声が聞こえてくると一緒に喜んでくれるようになりました。ゴルフとスキーも好きで、特にスキーは幼少期から親しんでいます。昨年からは子どもたちも一緒に出かけられるようになったので、サミット・スキー場の年間パスも持っています。仕事場が海岸沿いだけに、コロラドなど内陸でのスキー旅行もしてみたいですね。

海陸の勤務地を問わず、船舶の安全運航に関わる海技者としての仕事は0点か100点しかなく、正確に成し遂げて当たり前。なぜなら、自分のミスひとつで、荷主の大切な貨物を損なうだけでなく、乗組員の命にもかかわるからです。いつまでもこの初心を忘れることなく、これからも業務に邁進していきたいと思います。

磯野 愛
2020年6月まで北米報知社でセールス・マネジャーを務める。北海道札幌市出身。2017年に夫の赴任に伴ってシアトルに渡るまでは、日本で広告代理店に勤務し、メディア担当、アカウント・エグゼクティブとして従事。ワシントン大学でMBA取得後、現在はシアトル発のスタートアップ、Native English Instituteのマーケティング担当として日本市場参入準備に携わる。趣味はテニスで、大会(とその後の打ち上げ)の再開を心待ちにしている。