シアトル駐在日誌
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
永澤隆史(ながさわたかし)■神奈川県出身。2016年より全日本空輸株式会社(以下ANA)からボーイングに出向中。大学では航空工学を専攻し、自宅には飛行機のポスターが所狭しと飾られている。特に好きな飛行機は、離陸姿が優美な「B777-300ER」。休日の楽しみは妻のかなさんと出かけるレストランめぐり。最近はボセルにある Nakagawaのハヤシライスがお気に入り。
ANAの技術職には機体の整備を預かる「整備技術」と、安全に飛ばすための技術である「運航技術」の2種類あり、私は後者担当。もともとは航空機の「取扱説明書」を作る部署にいました。ボーイングから届く航空機マニュアルを、日本の法律やANAの運航環境に沿ってカスタマイズする仕事です。大型旅客機の寿命は20~30年。皆さんが乗っている車より長いかもしれませんね。ANAとしては、ボーイングから飛行機を買ってそれでおしまい、というわけではないんです。納品後にもボーイングに寄せられた要望や機体そのもののアップグレードなどに伴い、半年に1度くらい、ボーイングから機体の「マニュアル改訂」が通達されます。今回のボーイング出向は、その改訂のプロセスを学び、ANAのマニュアル品質向上につなげるのが目的。18カ月の期間限定で、ボーイング側の社員として日々勉強中です。
実は、日本で家を買ったばかりだったんです。「家を買うと転勤する」という都市伝説は本当でした。希望していたポジションだったのでうれしかったのですが、ちょうど妻も新しいキャリアへのチャレンジが実った直後というタイミングで、正直戸惑いました。一緒に来て、毎日おいしいご飯を作ってくれる妻には本当に感謝しています。新居は誰にも貸さずに来ました。
こちらは家賃が高く、家計は大変です(涙)。部署で日本人は私だけで、同僚たちのバックグラウンドの多様さにはとても驚かされます。転職組には世界のエアライン各社から来た人、米軍から来た人などもいて、さまざまな運航環境のスペシャリストが集まっています。会議ではそんな彼らが議案に対して真摯に考えをぶつけ合うため、純粋な議論ができます。最後はマネジャーが取りまとめるのですが、自分の意見が採用されなくても後くされなく、さっぱりとしています。この姿勢は本当にすごいと思いますね。
また、この部署では「スーパーフレックス」という働き方を採用していて、週に40時間働けばOK。月~木曜にまとめて働いて金曜を休みにしても良いし、朝は暗いうちから出社して日が暮れる前に退社する同僚もたくさんいます。アフター5どころかアフター2やアフター3が充実しているんですよ。日本でもワークライフバランスという言葉がよく聞かれますが、アメリカ人は完全に「ライフありき」の生活をしています。私もボーイングの福利厚生制度を利用し、フロリダ州にあるエンブリー・リドル航空大学で航空安全学をオンラインで勉強中。宿題が大量に出るので、平日夕方や休日の時間を有効に使えるのはありがたいです。
お客さまの目には見えないものですが、マニュアル改訂プロセスや航空機そのものに関する知識に精通することは、安全や運航品質の向上に直結していると日々感じて います。「飛ばす技術」の発展に寄与することで、航空機の能力を最大限に引き出したい。これからも空の安全に貢献できるよう、ここで学べることを精いっぱい吸収して日本に戻りたいと思います。