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菅沼秀夫さんに聞く、これからのシアトル不動産市況はこうなる!

宏徳エンタープライズ 菅沼秀夫さんに聞く
これからのシアトルの不動産市況はこうなる!

異常なほどに売り手有利だった2018年前半の市況から、2018年後半から今年に入って落ち着きを見せています。「市場が停滞」と表現されることもありますが、「通常マーケットに戻っている」と言ったほうが正しいでしょう。

住宅物件市場では5、6カ月で売り切れるほどの在庫がマーケットに残っている状況が通常と言われます。2019年1月でレポートされた在庫は1、2カ月分。昨年前半はこの在庫が1カ月分以下の状態でした。中国からのバイヤーの投資案件が減少傾向にあることなどが、シアトルの市況を落ち着かせている要因だと考えます。

昨年は多くの人が家を買いたくても買えない状況だったので、住居購入を検討している方にはチャンスがめぐってきた2019年と考えて良いと思います。

中古物件市場が確立されているアメリカでは資産形成としての不動産購入が可能

築数十年の中古物件でも建物の価値がなくならないことが、日本との大きな違いです。日本では建物の価値は中古車のように年数の経過と共に下がり、30年もすれば、物件の価値は土地代のみになってしまうケースが多いのです。そのため日本では、家を「住む」ものとして購入する考え方が中心ですが、アメリカでは「投資」として購入する考え方が一般的。

市況による価値の上下はありますが、建物の価値がゼロになることはなく、購入した物件を数十年後に再販することができます。住宅ローンを支払うことで資産を形成していくことができるのです。

不動産価値が下がらない理由は、中古物件市場が成熟していて、インスペクション(家屋調査)の慣行など中古物件でも安心して取り引きできるシステムが出来上がっているから。日本では新築が好まれる傾向にありますが、アメリカではある程度の年月が経過した住宅のほうが、似たりよったりの新築物件よりも趣があるとして高値が付くことも多いのです。

また、戦後の日本家屋は安普請が目立ち、高い湿度もあって耐久年数が短いことが多く、一般的に長年の居住を想定して建てられるアメリカの住宅とはそもそも異なります。

一時的なアメリカ滞在では、大きな支出がなく自由に移転できる賃貸住宅に住むオプションもありますが、投資を兼ねて購入に踏み切るメリットも大きいもの。素敵な家に住み、広い庭でバーベキューを楽しんだりホーム・パーティーを開いたりと、アメリカならではのライフスタイルを楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

売り手市場が続く中で購入したい物件を手に入れるには

アメリカでの不動産購入は、さまざまな交渉と手続きが必要なため、不動産エージェントに委託するのが一般的です。実際に家を探す前に、エリア、寝室数、近隣環境など大まかな希望条件を決めておくと良いでしょう。イーストサイドに多い、高ランクの公立学校区にあるエリアは、家の価値も下がりにくく常に人気です。

購入時期は、さまざまな物件が市場に出て選択幅が広がる春夏の季節がおすすめ。特に学校の夏休み中は新学期を前にして引っ越しをする家庭が増え、取り引きが活発になります。

購入物件を決めたら、価格やその他の取引条件を交渉していきます。その際、建物のインスペクションに関わる条件交渉は重要なポイント。売り手が強い近年の市況では、売り手がインスペクション不可としたり、インスペクション費用を買い手負担として条件提示したりするケースも多く見られます。

しかし、プリ・インスペクションと呼ばれる水回り、屋根裏、床下、電気系統など基本的な検査のみに特化したものだけでも、必ず条件に盛り込みましょう。一般的なインスペクション費用は500~600ドルほどですが、プリ・インスペクションは200~300ドル程度で済みます。

2017年から2018年前半にかけては、現金で購入する中国などからの外国人投資家と競争をしなくてはならない状況が続きました。住宅ローンを組んで購入する場合は、「ファイナンシャル・コンティジェンシー」と呼ばれる住宅ローンが組めなかった場合の解約条件を、購入条件に盛り込むのが一般的ですが、現金購入者と競争する際は、このファイナンシャル・コンティジェンシーを条件に含めないという選択肢もあります。

ただし、住宅ローンが組めずに解約しなくてはならなくなった場合、本来は買い主に戻るはずのアーネスト・マネー(手付金)の全てもしくは一部が、売り主に渡ることになり、買い主のリスクは上がります。2019年は、売り主によるインスペクションやファイナンシャル・コンティジェンシーを盛り込んだ購入申し込みもできる状況に戻りつつあります。

 

不動産登記までの流れ安全な取り引きを実現する
「エスクロー」システム

取引条件を契約書としてまとめ、不動産登記に関わる処務を請け負うのが、エスクロー・カンパニーと呼ばれる登記受託会社です。アーネスト・マネー(手付金)や頭金などの支払いもエスクローを介して出入金されます。買い主が売り主の口座へ直接入金するようなことはなく、エスクローが第三者として仲介することで、公平で安全な不動産取引が保たれています。

アメリカでは、日本で法務局が管理している不動産登記簿謄本のようなものがありません。そのため、ワシントン州ではタイトルと呼ばれる権利証書の発行と、その内容に誤りがあった場合に補償をするタイトル保険の購入が売り主側に義務付けられています。

買い主が住宅ローンを組む場合は、銀行が買い主にタイトル保険の購入を義務付けるケースがほとんどです。また、住宅ローンに関連して、アプレイザーと呼ばれる不動産査定業者が物件調査をして、売買価格が適正な市場価格に則しているかを査定するプロセスも加わります。

取引条件を明記した契約書、タイトル保険、アプレイザーの査定結果、決済情報など全書類の手配や買い主、売り主双方の署名をエスクローが請け負います。この全てのプロセスに約30~40日間をかけて、不動産登記が完了、売買成立になります。

ただし、2018年から登記後72時間の保留期間が設定されるようになりました。登記後も、その保留期間の間に売り主または買い主が取り引きをキャンセルするケースもありますので注意してください。

売却時のポイントは?

不動産エージェントを介して販売物件を登録し、売り出します。個人売買することは、住宅物件ではごくまれです。売却時に重要なのは価格付け。土地・建物の広さ、寝室数、バスルーム数、近隣環境などから、競合する物件の価格も考慮しながら設定します。

希望価格に満たない場合でも、マーケットの適正価格にできるだけ近い価格で売りに出すことをおすすめしています。「とりあえず市場価格よりも少し高く売りに出して様子を見よう」と考える売り主も多いのですが、その場合は売れ残るリスクも高まって、結果的に市場価格以下の購入申し込みしか入らない結果にもつながります。

物件の印象を良くするために、ステージングと呼ばれる物件の内装デザインや家具・装飾品のレンタルをするサービスを利用することもできます。また、屋根、雨どいの掃除、暖房機の点検、水回りの掃除や修理など、一般的な家屋メンテナンスを事前にしておくことも、より高値で売却するカギになります。

なお、販売時に得た売却利益に対してはワシントン州から所得税が課されますが、永住権がない外国籍者は州税に加えてIRS(米国税局)から10~15%の源泉徴収が課されますので注意が必要です。

 

押さえておきたい!アメリカ不動産用語

⚫️ モーゲージ Mortgage
住宅ローンとほぼ同意義。日本では銀行から直接に借り入れるケースが多いが、アメリカではモーゲージ・ブローカーと呼ばれる、銀行から独立したエージェントを介するケースが多い。

⚫️ エスクロー Escrow
不動産の取り引きに関わる決済と登記を請け負うこと、またはその受託業者。ワシントン州における不動産売買ではエスクローを使うことが義務化されている。なお、エスクローのシステムがないニューヨークなどの州では弁護士を立てることになる。

⚫️ アプレイザル Appraisal
不動産査定のこと。アプレイザーと呼ばれる不動産査定の専門家が、物件の広さや建物の状態、また市況を踏まえて物件の適正価格を割り出すこと。

⚫️ インスペクション Inspection
実地での家屋調査。インスペクターと呼ばれる専門家が主に建物の構造的な問題がないかをチェックする。

⚫️タイトル Title
不動産の権利証書。所在地や地積、建物の築年数などの基本条件に加えて、所有権の情報が含まれ、売り主以外の地権者がいないか、抵当に入っていないか、未払いの固定資産税が残っていないかなどを証明するもの。

⚫️アーネスト・マネー Earnest Money
物件購入申し込みの際に支払う、いわゆる手付金のようなもの。法的に義務ではないが、買い手の本気度をアーネスト・マネーの金額で示すことができる。後に購入金額の一部になる。

 

宏徳エンタープライズ
☎425-644-7437, info@kohtoku.com
http://kohtoku.com

1992年創業。購入時にはモーゲージ・エージェントやインスペクターの紹介、販売時には価格付けのアドバイスやタイトル保険、ステージングの手配を含むきめ細かなサービスを提供する。「買ってからのおつきあいを大切に」をモットーに、アメリカ生活全般の相談にも応じるアフターサービスに定評。投資住宅物件や商業物件の管理などプロパティー・マネジメントも行う。