Home ビジネス シアトル駐在員日誌 公邸料理人 益子竜一さん

公邸料理人 益子竜一さん

シアトル駐在日誌

アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。

取材・文:磯野愛

スラリと背が高く真っすぐな眼差しが素敵な益子竜一さん

益子竜一■東京都出身。2017年より山田洋一郎総領事の着任に伴って、シアトル駐在となる。公邸料理人として、在シアトル日本国総領事館、総領事公邸のキッチンを一手に担う。

高校生の時から料理人になることを決めていたので、卒業後は調理師専門学校に進学。最初の勤務先はホテルオークラ東京で、フレンチに軸足を置きながらメインダイニングと宴会調理で5年間の修行を積みました。24時間365日休みのないホテルでは、早朝から時には深夜までの勤務となり、大変厳しいものでした。

ワークライフバランスを整えたいという気持ちから、新たな職場に選んだのは、広尾にあるホテルニュー山王。実はちょっと変わっていて、米軍関係者専用のホテルなんです。いわば、そこは小さなアメリカでした。従業員は多国籍で、厳しい上下関係はほとんどありません。そのうえ、副業もOK。さまざまなレストラン業態を勉強したいと思っていた私は、この間に副業として、イタリアン・レストランやバーなど4カ所の飲食店とかけ持ちしながらホテルで働いていました。必然的に英語が身に付く職場環境のおかげで、広く世界を見てみたいという思いを強く抱くようになり、公邸料理人への応募を決めました。

公邸料理人は、国や地域といった「勤務地」に付くのではなく、大使や総領事といった「人」に付きます。つまり、私の上司は山田洋一郎シアトル総領事です。日本で、山田総領事による面接と、実際の調理、試食に無事合格して、シアトルへの赴任が決まりました。公邸料理人の仕事をひと言で表すと、在シアトル日本国総領事館、総領事公邸で振る舞われる全食事の準備です。領事館主催で行われる食事会は大小さまざま。60名から時には100名を超える大きなパーティーが2週間に1回程度、そして10名前後の会食などが週に複数回、ランチやディナー共に開催されます。メニューを決めるところから仕入れ、仕込み、当日の調理、そして予算管理までの一連の作業をひとりで行います。

フレンチと和のコラボレーション季節感会食目的などを考慮しながらメニューを構成する

買い出しも自分で行きます。総領事公邸はクイーンアンにあるので近隣の店を利用したり、宇和島屋やコストコで調達したりもします。やはり、いちばんの苦労はメニューの考案です。ゲストは国籍もバックグラウンドもいろいろ。当然味覚も違いますし、またベジタリアンやビーガン、コーシャなどさまざまな食文化を持つゲストがいます。人数や会食の目的に合わせ、自分のベースであるフレンチを生かしながら、和の要素も取り入れるようにしています。基本的にたったひとりで業務をこなしているので、時には困ったり迷ったりもしますが、別の国で勤務する公邸料理人の仲間と情報交換をして、悩みを共有することでお互いを元気づけ合っています。

妻の愛さん長男の成くんと

妻の愛(まな)と、1歳の長男・成(じょう)の3人家族で、私たちも総領事公邸の敷地に住んでいます。愛とは小学校のクラスメートで、14年ぶりにフェイスブックを通じて再会し、結婚しました。休日には趣味のバスケットボールやサッカーに出かけたり、家族でドライブや買い物に行ったりもします。ありがたいことに、日本人の友だちにとても恵まれていて、友人宅でパーティーをすることも多いですね。むしろアメリカに来てからほとんど英語を使わなくなってしまい、残念ながら英語の上達は望めそうにありません。ゆくゆくは日本で自分のレストランを持ちたいと考えています。シアトル総領事館はシアトルにおける日本の顔。ゲストにとって最高の思い出となるべく、おいしい食事でサポートできるように、これからも頑張ります。