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第8回 思春期外来を学ぶ〜Dr.松浦の診療所から

小児科医が臨床経験と知見をもとに、子育て中の皆さんの不安や迷いに寄り添う情報をお届けします。

第8回 思春期外来を学ぶ

アメリカにおける小児医療と思春期診療
アメリカで子育てをしていると、日本とは大きく異なるアメリカの小児医療の特徴に気づくでしょう。日本では一般的に子どもが病気になると小児科を受診します。一方、アメリカでは3歳以降、小児科または家庭医による毎年の健康診断(Well check)を受けることが標準的な医療として定着しています。検診では身長・体重の測定、視力・聴力の確認、ワクチン接種に加え、生活習慣やメンタルヘルスに関わる相談など、幅広い領域を継続的に診ていきますが、これは十代になっても変わりません。本来18歳までは毎年の診察が推奨されていますが、思春期に入ると恥ずかしさや忙しさ、面倒くささなどから受診が途絶えるケースも少なくありません。しかし実際には、思春期こそ医療・心理面での支援を必要とする時期であり、定期的な受診の重要性はむしろ高まります。
心と体が大きく変化する時期に必要な支援とは
アメリカの思春期診療では、「HEADSSSアセスメント」と呼ばれる問診が広く用いられています。H – Home(家庭)、E – Education(学校生活)、A – Activities(部活・習い事など)、D – Drugs(飲酒・喫煙・薬物)、S – Sex(性についての健康)、 S – Suicidality(自殺念慮)、S –Safety(家庭内外での安全)を指します。
11歳から12歳頃になると、診察の途中で保護者に席を外してもらい、医師が子どもと一対一でHEADSSSに沿った問診を行います。命に関わる危険がない限り、本人の同意なく診察内容を家族や他機関に共有できません。そのため、子どもは安心して相談できます。
医療情報のプライバシーを守る仕組み
ワシントン州を含む多くの州では、13歳になるとMyChartなどのオンライン医療ポータルでの保護者アクセスが制限されます。診察や検査により得られた性やメンタルヘルスに関わる情報は本人のみが閲覧できるようになり、保護者アカウントには表示されません。これは子ども自身のプライバシーを守りつつ医療を利用できるようにするという医療倫理に基づいています。
思春期専門外来
一般的には小児科と家庭医で思春期診療が行われますが、さらに一歩進んだ思春期専門外来(Adolescent Medicine)という分野が存在するのをご存知でしょうか。シアトルこども病院(Seattle Children’s Hospital)とワシントン大学 ハーバービュー・メディカルセンター(UW Medicine – Harborview Medical Center)には、思春期専門外来が設けられています。シアトルこども病院の公式サイトでは12歳から21歳を対象とした診療が行われていることが確認できます。そこでは、メンタルヘルス、月経トラブル、摂食障害、性に関わる健康、LGBTQ+サポートといった、思春期に特徴的な心身の問題に幅広く対応しています。

また、シアトル・キング郡公衆衛生局(Public Health – Seattle & King County)が運営するティーンクリニック(Teen Clinic)という思春期対象の外来も利用できます。このクリニックでは、避妊サービス、妊娠検査、性感染症 (STI) や HIV の検査・治療、無料コンドームの配布など、性や妊娠に関する健康サポートを提供しています。特筆すべき点は、保険の有無にかかわらず、保護者の同伴や同意がなくても受診でき、対象年齢の若者が自分自身で医療サービスにアクセスできることです。予約制に加え、診療時間内であれば予約なしでも対応しています。
最後に
思春期は気持ちが揺れやすい時期ですが、適切な支援があれば、その後の人生の基盤を築ける大切な時期でもあります。シアトルで子育てをしている家庭にとって、医療制度や利用できる外来を知っておくことは大きな助けになるはずです。気になることがあれば、遠慮なく医療従事者に相談してみましょう。

参考文献

ワシントン大学 ハーバービュー・メディカルセンターUW Medicine – Harborview Medical Center
https://www.uwmedicine.org/locations/adolescent-medicine-harborview

シアトル・キング郡公衆衛生局(Public Health – Seattle & King County)
https://kingcounty.gov/en/dept/dph/health-safety/health-centers-programs-services/teen-clinics

松浦 有佑
米国小児科専門医。ワシントン大学シアトル小児病院小児発達行動専門フェロー。日本医師免許取得後、日本国内初期研修を経て米海軍病院で勤務。アメリカ医師免許を取得し、2021年からニューヨークのマウントサイナイ病院で小児科専門医レジデンシーを開始。同時にジョンズホプキンス大学で公衆衛生修士課程を専攻。ともに修了し、2024年より現職。NHKワールドや在米邦人チャンネルさくらラジオでラジオドクター等の出演歴あり。共著には『全く英語が話せなかった私のとっておき医療英語勉強法』『ぼくらのリアル!メディカル英会話フレーズ集』がある。