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日本語学習を通し、人間としても成長してほしい ~バラード・ハイスクールの例~

日本語学習を通し、
人間としても成長してほしい
~バラード・ハイスクールの例~

ひと口に高校の日本語クラスと言っても、学区や学校、先生によってかなり内容が異なります。シアトル学区では、バラード・ハイスクールで日本語クラスを担当するスミス幸子先生に話を聞きました。

取材に訪れたのは1月初旬。開始時刻を前に、生徒たちが続々と教室に入って来る。全員がしっかりと日本語で挨拶の言葉を口にするのには感心した。高校1年生の日本語クラスで行われるのは、書き初めのアクティビティーだ。そして、提出する宿題は自分で作成した「おみくじ」。室内には門松や鏡餅なども飾られ、日本の正月気分を盛り立てる。「とにかく、楽しくないと。みんな、日本語を一生懸命頑張ってくれているから。語学の中でも難しい日本語を選んでもらったというだけで生徒たちには感謝しています」と、幸子先生は微笑む。

授業を始める前に、誕生日を迎える生徒を日本式にお祝い。そして、書き初めについて動画を見せながら説明する。おしゃべりが飛び交うアットホームな時間。生徒は各々、好きな漢字を選び、立派な作品を仕上げていった。この日は、日本語代行教員として各校を回る青木志保先生もサポートに入っており、幸子先生のクラスについて、「生徒はみんな予めやるべきことがわかっているようで、スムーズに進行し、あまり手伝うことはありませんでした(笑)。普段からシステムがきちんと出来上がっているのだと感じました」と、感想を語った。

シアトルでは80年代から始まったとされる日本語教育。ケブン・ウィンクープ校長は「戦中戦後で日米間にできた隔たりを考えると、過去の敵意を乗り越え、新しい世代のために日本の豊かな歴史と文化を学べる環境を築けたのは実に胸が熱くなります」と述べ、その礎となる日本とシアトルの間に育まれた友好関係も強調した。「他国の文化を理解することは、異なる点よりむしろ似ている点を見つけるのに役立つ。誤解による衝突を避けるためにも外国語教育は不可欠」と結んだ。

生徒からの声

日本人の親を持ち幼い頃から日本語スクールに通った経験もある3人

ハナコさん(1年生・写真左)
日本人の母が「日本語ならAが取れるから」と勧めてくれました。クラスはとても楽しいです。将来は親戚がいる東京に留学したいです。

カールくん(1年生・同中央)
日本語を選んだのは、日本人の母と日本語でもっと話せるようになりたいと思ったから。僕も日本への留学を考えています。

カイルくん(1年生・右)
小学3年生まで土曜日に日本語スクールに通っていて、本格的な日本語学習はそれ以来。在校中に東京と長崎へ留学するつもりです。

日本語APクラスの優等生
大阪の高校留学から戻ったばかりのふたり

ハンチくん(4年生・写真右)
小さい頃から日本の食文化やおもちゃに憧れていました。レシピなどの動画を日本語で理解できてうれしい。大阪では卓球部に入り、留学生活を満喫しました。大阪弁での会話が難しかった!

オニールさん(3年生・同左)
友だちと日本語クラブを作り、会長を務めています。日本語の響きがきれいだったので勉強しようと思いました。日本のアニメも大好き。大阪は楽しいところでした。焼き鳥がおいしかった。

スミス幸子先生にインタビュー

—同校での日本語クラスのシステムは?

語学は必修科目で、2年間以上学ぶ必要があります。日本語は学年別の4クラスとAPクラスになりますが、スペイン語、フランス語が大多数。スクール・カウンセラーが優秀な学生にしか日本語クラスの履修を認めてくれないんです。成績の良い学生ばかりなのはいいですけれどね。現在は生徒約2,000名のうち約150名が日本語を学んでいます。

生徒たちの日本語力アップのために工夫していることは?

高校生は精神的に不安定で、人前で間違ったり恥をかいたりしないようにと、日本語の使用に消極的です。それが、小・中学生から日本語を使う習慣が身に付いた生徒との大きな違い。そのため、クラスが「安全地帯」だとわかってもらえるように努力しています。昨年はクラスで「安全地帯Tシャツ」も作りました(笑)。ゲームをしたり、笑える日本の動画を見たりして不安を和らげています。

挨拶も大切。授業前の挨拶、礼を通して「自分は日本にいる」という感覚を持ってもらいます。日本人の子どもたちと違って、アメリカ人の生徒は授業中の50分間、静かに座っていることはできません。重要な点を教えるのは10分。あとは習ったことを復習できるアクティビティーを用意します。

—日本との交流について教えてください。

17年前にショアラインのショアクレスト・ハイスクールで日本語を教え始めました。毎年、日本へ学生たちを連れて行っていた同校を見習い、5年前にバラード・ハイスクールに移ってからも毎年4、5名を大阪の高校に留学させています。日頃から「日本語は生きている。実際に使って生活できるんだよ」と言い聞かせているので、現実にその経験をして帰って来た生徒たちの存在は、ほかの生徒たちにとっても良い刺激になります。

また、兵庫県ワシントン州事務所による英語教師派遣制度も助かっています。日本から来る先生方のおかげで、生徒たちは日本をより好きになってくれます。毎年3月には、日本からの高校生10〜15名がホームステイに訪れ、シアトルでの高校生活を経験します。

—日本語の学びが生徒たちにとって、将来どのような役割を果たすと思いますか?

90年代は将来的にビジネスで使えると親が子どもに日本語を勧めていて、今の中国語のような人気ぶりでした。最近は、日本の文化や習慣に興味がある生徒たちが多く、その日本愛には驚かされます。英語教師や国際交流員を日本に派遣するJETプログラムに参加する生徒もたくさんいます。そのひとり、フリスク・チャドくんは浜松に5年間滞在し、その経験を『直訳不可能:英語教師が見る日本』という書籍に記しています。生徒たちもそれを読んで、励まされているようです。

他の教科と違い、日本語クラスでは高校4年間、同じ生徒を教えられるので、個々の成長を目にできます。肩書きは日本語教師ですが、本当に私がなすべき大切な仕事は、「自分は価値ある、愛されている大切な人間だ」と、生徒に自信を持たせることではないかとつくづく思います。全く違った文化、考え方の日本について、日本語を通して学ぶことで、他者を思いやる優しい心を持った人間に育ってほしい。そのサポートができたら、と考えています。幸い、ワシントン州日本語教師会(WATJ)を始め、ワシントン州日本文化会館(JCCCW)、領事館、兵庫県ワシントン州事務所など、シアトルの日系コミュニティーが一体となって日本語教育、日本語教師ひとりひとりを支援してくれています。

読者の皆さん、どうか家では日本語で話し続けてください。子どもたちは高校の日本語クラスで、「自分の日本語力は大したものだ」と気付くでしょう。クラスメートが苦労して、あいうえおを学んでいるのを見ることで、もう1度真剣に日本語学習に取り組んでくれます。友だちからうらやましがられる日本語力を自覚した時、また学ぶエネルギーが生まれるようです。高校では日本語でなく、ほかの語学を勉強することも素晴らしいこと。多言語の習得により、大学はもちろん、社会でも求められる人材になるはずです。

Ballard High School
1418 NW. 65th St., Seattle, WA 98117
☎206-252-1000
https://ballardhs.seattleschools.org