コロナ禍で学ぶ環境が激変
子どもたちの気がかりは?
学校生活での友人との交流がなくなって孤独感や不安感を感じる状態が長期化したことで、うつ症状を訴える「コロナうつ」の子どもが増えています。本誌連載コラム「子どもとティーンのこころ育て」を寄稿する長野弘子さんに、コロナ禍での子どもたちへの影響と家庭でできるケアについて聞きました。
心身に影響を受ける子どもたち
米疾病対策センター(CDC)によると、2020年4〜10月に自殺未遂やパニック発作などで救急病院を訪れる未成年者の数は、2019年と比較して5〜11歳は24%、12〜17歳は31%増加(1)。カイザー家族基金の昨年7月中旬の調査では、大人の53%が「精神状態が悪化した」と回答(2)し、家庭内暴力や児童虐待件数も増え、家の中でおびえながら暮らす子どもの増加が懸念されています。Withコロナの時代においては親子共に心の健康をまずは最優先課題として、子どもからのSOSサインにいち早く気付き、迅速に対応することが大切です。
子どもは大人と異なり、言葉でうまく気持ちを伝えられないため、かんしゃくを起こしたり身体症状となって表れたりすることもしばしば。ティーンの場合、まずは食事や睡眠時間の乱れから始まります。日中ぼーっとして気だるそうにしていたり、怒ったり、泣き叫んだりと情緒不安定に。具体的には以下のような反応が表れたら注意が必要です。
親はどう対応すればいい?
以下のチェック項目にある症状は、慢性的なストレスや環境の変化により誰にでも表れるストレス反応ですので、短期間であれば心配する必要はありません。小さい子どもの場合はスキンシップや一緒にいる時間を増やして、愛情と安心感をたくさん与えてあげましょう。不安感や悲しい気持ちを否定せずに受け入れ、好きな物や遊びを書き出すなど楽しい気持ちを感じる時間を意識して増やすといいですね。また、適切な距離を取りながら友だちと外遊びをしたり、家族で散歩したりするのも、ストレスを発散できる方法です。
ティーンの場合は、まず親が気遣っていることを伝えましょう。機嫌の悪い時やゲームの最中などは避け、おやつの時間や夕食後などくつろいでいる時間を見計らって、「最近、ご飯の時しか部屋から出て来ないね」、「元気がないように見えるけど大丈夫?」など懸念を伝えます。無理に答えさせようとせず、相手の話を傾聴して「あなたは大事な存在だよ」というメッセージを伝えることが大切です。また、自分自身や周囲が体験した、心の病気や挫折から立ち直った話などを共有するのも、子どもに希望や安心感を与えます。
ただし、もともと不安が強く繊細でストレスに弱いタイプの子で、2週間以上複数の症状が続き、悪化しているようであれば、不安障害やうつ病などに発展する可能性も。かかりつけ医や専門機関に相談し、希死念慮や自傷行為などを調べて、適切な措置を取るようにしましょう。身体的暴力や強迫行為などで本人や家族の安全が脅かされている場合は、警察に電話するか近所の救急処置室に連れて行くなど迅速に対応してください。
子どもにこんな様子が見られたら要注意
幼児〜小学生
- ちょっとしたことでぐずる、わがままになる
- 泣くなどかんしゃくを起こすことが増える
- 指しゃぶりなどの赤ちゃん返り
- 親にまとわりつくなど甘えた言動が増える
- 食欲の増加や減退
- 頭痛や腹痛、吐き気を訴える
- 夜の寝つきが悪くなる、怖い夢を見る
- お漏らし、おねしょ(夜尿)
- 元気がない、疲れやすい
- 手洗いを何度も繰り返すなど過敏に反応する
- 新型コロナに関する遊びを頻繁にする
中学生〜高校生
- 集中力や記憶力の低下
- 学習意欲の減退、学校成績の低下
- 睡眠時間や生活リズムの乱れ
- 食欲の増加や減退
- 頭痛や腹痛、吐き気を訴える
- 元気がない、疲れやすい
- 部屋にこもりがちになり、家族や友人と会話をしなくなる
- イライラして暴言を吐いたり物に当たったりする
- 自分に対して否定的な言葉を頻繁に使う
- 手洗いを何度も繰り返すなど過敏に反応する
- お酒やドラッグ、処方されていない薬の使用
これまでの「すべき思考」を手放す
今の状況に大勢の人が不安を感じていますが、特に不安を感じやすい人は、未知の状況に対して否定的に考える「思考のクセ」があります。こうした思考のクセは遺伝的な気質に加えて、家庭や社会環境から影響を受けて作られ、自分ではなかなか気付きにくいもの。この機会に、親子で思考のクセを知り、不安感を減らす考え方を身に付けましょう。
よくある否定的な思考のクセが「すべき思考」です。これは、期待されている言動を実行すべきという考え方で、それができないと自他を責め、ますます不安や焦燥感を強めてしまいます。たとえば、親が宿題やお手伝いができなかった子どもにイライラして、「なぜちゃんとできないの」と怒ってしまう場合、「宿題やお手伝いはきちんとすべき」という「すべき思考」があり、現実にはそうなっていないので嫌な気持ちになります。
親がイライラして怒っているのを見るだけで、子どものストレスホルモンは上昇し、不安感が高まります。まずは、立ち止まって深呼吸。友人には使わないような強い口調だと思ったら、友人に話すような穏やかな口調で子どもに話しかけるよう意識してみましょう。
親子でできるストレス軽減法
自分の考え方や思考のクセを客観的に見つめるために効果的なのが、「マインドフルネス」です。ひと言で言うと、「今ここ」に集中すること。五感に意識を向けてありのままを感じ、自他への批判や評価、過去の後悔や未来への不安、執着心などの否定的な心の声を静め、不安感や焦燥感を減らし、ストレスに強い脳を作り上げます。効果的なマインドフルネスの方法に「ボディー・スキャン瞑想」があります。3分ほどでできますので、子どもと一緒にぜひ試してみてください。
ほかにも、子どもと一緒にキャンドルの火をじっと1分間見るだけでも、気分が落ち着き、集中力もアップします。ご飯を食べる時に目を閉じてじっくり味わう、シャワーを浴びる時に肌にお湯の当たる感覚を意識する、掃除や料理などの家事、スポーツなどに没頭する行為もマインドフルネス。五感の感覚を研ぎ澄ますと、世界が新鮮に見えてきて、通常は気付かない自分の思考のクセをキャッチできるようになります。「過去の嫌なことばかり考えている」、「将来の心配ばかりしている」など、自分の思考のクセに気付いたら、五感の感覚に意識を戻すだけでも否定的な心の声が静まります。
ボディー・スキャン瞑想
1. 楽な姿勢で椅子に座り、目を閉じ、ゆっくり深呼吸をし、酸素が自分の体に入ってくる感覚、また息を吐くたびに体がリラックスしていく感覚を感じる。
2. 足の裏から徐々に体全体をスキャンしていき、カーペットや床に足がついている感覚、重さ、圧力、温度などを感じる。
3. 椅子に接している太ももの裏側、背中の感覚、お腹に注意を向け、呼吸を続ける。
4. 順番に、手と腕、肩、首、喉、顔にも意識を向けていく。
5. 最後に全身を感じたまま呼吸を続け、十分リラックスしたところで目を開ける。
親もつらい!時には子どもより自分のケアを優先に
コロナ以前から、現代社会に生きる私たちは人間の生来的なバイオリズムから大きく外れた多忙な生活をしてきました。文明病とも言える不定愁訴や心身症は、やることが多過ぎて脳が休めず、神経が常に戦闘モードになり、疲弊している状態。これまでの生活を見直して、本当に大事なものだけを手元に残し、味わう時期に来ているのかもしれませんね。
社会からの「〜すべき」という要求に合わせようとするのではなく、まずは自分が自分の支援者として、心の声を全部受け止めてあげましょう。「いつも頑張ってるね」、「もう十分だよ」など自分に語りかけて、好きなことやリラックスできること、やってみたいことをリストアップしてみましょう。
お風呂にゆっくり浸かる、ヨガ、瞑想、アロマ、音楽や映画鑑賞など、ひとりですぐに実践できることは意外とたくさんあります。親がセルフケアを優先してリラックスすると、子どもの心も自然と緩んできて、自分を大切にし、自分のやりたいことにフォーカスする思考のクセが身に付いてきます。すると、親が口うるさく言わなくても自発的に物事を考えて行動するようになります。親子共にWithコロナ時代の今こそ、「すべきこと」から「やりたいこと」へ、人生をシフトさせる絶好の機会だと捉えたいですね。
長野弘子■ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(MA, MHP, LMHC)。ニューヨークと東京で出版事業に携わった後、東日本大震災をきっかけにシアトルに移住。ノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手メンタルヘルス機関で5年間勤務し、独立。大人から子どもまで、さまざまな心の問題を抱える多くのクライアントに対してセラピーを提供している。
hiroko@lifefulcounseling.com
www.lifefulcounseling.com
文献リスト:
(1)Mental Health–Related Emergency Department Visits Among Children Aged <18 Years During the COVID-19 Pandemic — United States, January 1–October 17, 2020
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6945a3.htm
(2)The Implications of COVID-19 for Mental Health and Substance Use
- Centers for Disease Control and Prevention. (2021, Jan). COVID-19: Coping with stress. Retrieved from https://www.cdc.gov/
- Cherry, K. (2020, April). Verywell mind: How social support contributes to psychological health. Retrieved from https://www.verywellmind.com/
- Diamond, S. A. (2008, June). Psychology Today: Essential Secrets of Psychotherapy: The Inner Child; Has your adult self spent time with your inner child today? Retrieved from https://www.psychologytoday.com/us/blog/
- Earley, J. (2009). Self-Therapy: A step-by-step guide to creating wholeness and healing your inner child using IFS, A new, Cutting-Edge Psychotherapy. (2nd). Larkspur, CA: Pattern System Books.
- Kapil, R. (2019, June). Five tips to help teens cope with stress. Mental Health First Aid. Retrieved from https://www.mentalhealthfirstaid.org/
- Neff, K. (2015). Self -Compassion: The proven power of being kind to yourself. New York, NY: William Morrow.
- Ozbay, F., Johnson, C. D., Dimoulas, E.,Morgan, III, C. A., Charmey, D., and Southwick, S. (2007). Social support and resilience to stress. Psychiatry (Edgmont), 4(5), 35-40. Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2921311/
- Therapist Aid. (2017). Stress management tips. Retrieved from https://www.therapistaid.com/ Tips for managing stress and anxiety with COVID-19 [handout]. (2020). Counseling Center, Shoreline Community College, Shoreline, Washington.
- (2020). Ways to manage stress. Retrieved from https://www.webmd.com/