新刊の文庫本から漫画、雑誌や雑貨まで幅広く取り扱う紀伊國屋書店シアトル店は、アメリカ国内最大クラス。この夏読みたい一押しの作品を、店長代理の米本教助さんに聞く。
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舞台は2020年の滋賀県。夏休みを迎えようとしていた中学2年生の成瀬あかりは、コロナ禍で西武デパート大津店が閉店を迎えることを知ると「わたしはこの夏を西武にささげようと思う」と宣言。連日取材に訪れる生放送のカメラに映り込むため、西武に通うようになる。
POINT テンポよく読める爽やかな一冊
一見ばからしいことを最後までやり遂げる芯の強さが成瀬の魅力です。思い出を刻みたいと行動を取る姿に、この人はすごいことをやっているのではないかと思わされます。滋賀県のローカルな空気感も伝わり、西武の閉店に立ち会ったような臨場感を味わえるところもポイント。2024年の本屋大賞受賞に加え、紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめする 「キノベス!2024」でも1位を受賞しています。今話題の本としてあげるなら、まずはこれ!という作品。
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ジェイミー・フォード(集英社文庫)
1942年のシアトル。小学生だった日系アメリカ人のケイコと中国系アメリカ人のヘンリーは心を通わせあうが、ケイコが日系人収容所へ収容されたことを機にすれ違ってしまう。1986年、2人の思い出の品を偶然パナマホテルで発見したヘンリーは、ケイコを探すことにする。
POINT テンポよく読める爽やかな一冊
当店の文庫本コーナーで、1番売れてきた作品です。作品を読んだ後は、書店の側にあるパナマホテルを訪れてみてはいかがでしょう。作中に登場する日系人の荷物は今もホテル地下に保管されており、1階カフェのガラス張りの床から覗くことができます。日系人の歴史を知ることができる作品として、広くおすすめしたい1冊です。
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「自由死」と呼ばれる合法的な安楽死が認められた近未来の日本で、主人公と同居をしていた母は「自由死を選びたい」と言い残し事故死をしてしまう。生前の母に、どんな不満があったのか真意を知りたい主人公は、亡くなった人の姿を仮想空間でよみがえらせる人工知能のサービスを利用することに。
POINT 哲学的なテーマで、読み応え抜群
主人公はAIの母と向き合い、知られざる一面を知っていきます。そして、本当の人格というものは一つに限られず、その顔は対人や環境によって多種多様に変わるのだと感じ、人との交流一つ一つの尊さに気付きます。外国人労働者とのやりとりを通し、言葉の壁を超え本心を曝け出すというテーマにも触れており、海外で暮らす日本人として心に刺さりました。生き方や人との接し方に新しい視点を持たせてくれる作品です。
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建築家ザハ・ハディド案の国立競技場が建設されたパラレルワールドの東京が舞台。建築家の牧野は新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」建設に携わるが、犯罪者がのびのび過ごせるように設計された施設に世間から厳しい反発の声が上がってしまう。
POINT AIが伝えるメッセージとは
第170回芥川賞受賞作品。執筆にあたって一部生成AIを使用されたことで話題になった一冊です。「シンパシータワートーキョー」への反発が強まる中、建築家として自分のデザインした建築物と自分自身をどの程度重ねたらいいのか、どう自信を持って仕事をしていくべきか葛藤する場面が見どころ。AIを使用して執筆したという作中のパートは無機質ながらも、著者の文章と馴染んでおり、AIの文章でも訴えてくるものを感じます。
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編集者をしている主人公の友人は、オカルト記事を集めるうちに近畿地方のとある場所がどの切り抜きにも出てくることに気付く。共通した怪異が存在していると感じ調べるさなかに消息を絶った友人をたどり、主人公は「ある場所」を目指して考察を進めていく。
POINT ホラーが苦手な人にはおすすめできない極上のホラー
カクヨムと呼ばれる小説投稿サイトで話題になり書籍化されました。記事の中の地名が黒塗りされているのでかえって想像力がかき立てられ、よりリアルに感じます。漠然とは終わらず落としどころもつけてくれているところに読み応えを感じます。本の巻末には綴込みがついていて、全てを読み終わってから開くと思わず「うわっ」と恐怖心を畳みかけられるような仕掛けも。
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姉のメメンと、弟のモリが’織りなす3つの短編集。お皿を割ったモリをメメンが慰める「メメンとモリとちいさいおさら」、2人が張り切って雪だるまを作る「メメンとモリときたないゆきだるま」、自分と人を比較して落ち込むモリにメメンが寄り添う「メメンとモリとつまんないえいが」を掲載。
POINT 大人だからこそ読みたい児童書
児童書を代表するヨシタケシンスケさんの作品で、「キノベスキッズ!2024」で1位を獲得しています。大人が読んでも思わず唸ってしまうようなブラック・ユーモアが効いています。気軽に手に取りやすく、読んでいると新しい視点に気づかされます。平易な言葉ながらも生き方について考えさせられ、最後はクスッと笑える場面も。心が疲れている時におすすめです。
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子どもの頃、読書好きの父親に影響を受けて本を読み始める。初めて買った文庫本は、小学生のときに買った星新一の『ごたごた気流』。中学・高校時代は辻村深月や伊坂幸太郎などの青春ミステリー小説をよく読んでいた。書店ごとに異なる空間作りや本の魅せ方を観察することが好きで、一時帰国の際は荻窪にある「Title」という書店に足を運ぶ。
Uwajimaya Village, 525 S. Weller St., Seattle, WA 98104
営業時間:10am~8pm
☎206-587-2477、seattle@kinokuniya.com
https://usa.kinokuniya.com
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