子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
親子で考えるアメリカでのNGワード
子育てで頭を悩ませるもののひとつが、言葉使いです。汚い言葉や攻撃的な言葉を、友だちから、あるいはメディアから、子どもはたくさん覚えてくるようになります。日本で子どもたちが使う汚い言葉は、「バカ」や「アホ」、「死ね」など比較的限られていますが、アメリカでは特定の人種や民族、性的マイノリティーを侮辱し、罵倒する言葉もたくさんあります。こうした汚い言葉は「swear word」や「profanity」と呼ばれ、公共の場で使うと大ひんしゅくを買うので要注意です。
ハーバード大学の認知心理学者兼言語学者、スティーブン・ピンカー博士によると、こうしたNGワードは大きく5種類に分けられるとのこと。1. 宗教的な意味合いを持ち、恐怖心をかき立てる言葉:hell(地獄)、damn(罰を科す)など、2. 排泄物を示し、嫌悪感をもよおす言葉:shit(糞)、piss(尿)など、3. 死や病気を示す言葉:die(死)、sick(病んだ)など、4.性的な言葉:fuck(性交の俗語)、bitch(女性への侮蔑語)など、5.特定の人種や性的嗜好の人を貶めるような言葉:N-word(黒人への侮蔑語)、faggot(男性同性愛者への侮蔑語)などがあります。2はS-word、4はF-wordとも呼ばれます。
通常の言語処理は主にブローカ野(や)やウェルニッケ野(や)を中心とした左脳で行われますが、こうしたNGワードは怒りや不満などきわめて強いネガティブな感情と関わっており、主に感情を司る扁桃体で処理されます。ネットやゲーム依存の患者を調べた研究では、NGワードを聞いた時の扁桃体の反応が通常の人よりも強く、感情を抑制する機能が低いとする報告もあります。
抑制機能がもともと低かったのか、依存するにつれて機能が低下するのかは不明ですが、感情の抑制機能が弱く攻撃的な言葉を使いがちな人もいることを念頭に置いて、子どもがオンライン・ゲームをしている時の言葉使いを確認することも必要でしょう。また、トゥレット障害や、その他の脳の障害または損傷などで、本人の意思とは無関係に汚い言葉を発する場合もあります。
それでは、子どもがこうしたNGワードを使う時、親はどうすれば良いのでしょうか。まず、友だちが使っているのを聞いて意味もあまりわからずに面白半分で使っている場合、頭ごなしに叱るより、それが良くない言葉だと教える必要があります。また、怒って親に向かって「死ね」などの暴言を吐く場合には、子どもは理性を司る脳の部分が未発達なうえに善悪の判断がついていないので、最初から否定せずに、まずは子どもの気持ちを汲み取ってあげることが大切。そのあとで、「ひどい言葉を使ったのは、そこまで怒っていたからなんだね。でも、ママは傷付いたよ。今度から言わないでくれるとうれしいな」など、こちらの気持ちを伝えると良いでしょう。
しかし、NGワードが相手を侮辱するために意図的に使われたのであれば、毅然とした態度で厳しく諭します。その言葉を使ったら、相手がどのような気持ちになるのかを考えさせましょう。
最近の傾向としては、宗教的意味合いのNGワードのほか、SワードやFワードも徐々に許容されつつあるようです。一方で、特定の人種や性的嗜好の人を貶めるような言葉は、それがどんな場所であっても社会的に厳しい制裁を受けることになります。
実際に、今年だけでも天気予報士やバーテンダー、マクドナルド社員などが人種差別発言により解雇されています。昨年はミネソタの大学教授が黒人作家のジェームズ・ボールドウィンの著書を引用した際に黒人に対する差別表現をそのまま読んだために停職になりました。行き過ぎた言葉狩りという批判もあるものの、歴史的背景を考えると敏感にならざるを得ないでしょう。
日本でも、数年前にお笑い芸人が黒塗りメイクをしたことで世界中から批判が殺到しました。インターネットで情報が瞬時に拡散される現在、日本の話だからでは済まされません。子どもには、多文化共生の時代に生きる姿勢と言葉使いを今のうちからしっかり教えることが大切でしょう。