┃ 老い支度とは何か
人生100年時代、と言われる現代に多くの高齢者が望むのは「ピンピンコロリ」。「終活」という言葉も一般的になり、自身の葬式や墓についての希望を書き残す人も増えている。『百まで生きる覚悟/超長寿時代の「身じまい」の作法』(春日キスヨ著、光文社新書)の著者は、こうした「終活」ブームの割には、「ピンピン」と「コロリ」間の時期、つまり自分が誰かの世話にならざるを得ない時期が来ることに向き合っている高齢者は少ないのではないか、と指摘する。70代から80代の「昭和生まれ」世代は、「子どもの世話にはなりたくない、なれない」と言う人が多い。健康増進に熱心に取り組み、趣味や友人との交流にエネルギーを注ぐ元気な高齢者世代だが、老い衰える姿に向き合うことは避け、「暗いことは考えたくない」「成り行き任せ」にしがちである実態を、さまざまなインタビューから明らかにしている。これからは、いざ倒れたときに頼れる親族がそもそもいない、そういう人も増えてくる。本当に必要な「老い支度」とは何か、何から備え始めたら良いのか、高齢者自身も、支える世代も現実的な面から考えておく必要がある。
『自炊力/料理以前の食生活改善スキル』(白央篤司著、光文社新書)はタイトル通り、料理「以前」のところから始められる、食生活改善のための提案を盛り込んだ1冊。自分ひとり分の食事を手軽に、好きなように調達できるスキルを身に付けることは、慣れれば決して難しいことではない。ライフスタイルに合わせて自炊のハードルを下げることは、長い人生を生きていくうえで誰にとっても必須のスキルだとしている。日本人は、毎日完璧な栄養バランスを、と気にし過ぎたり、手間ひまかけた食事を用意しなければならないと思い込み過ぎたりしているのでは、とも指摘している。
┃ 就職氷河期世代の貧困
現在の労働市場において、新卒採用は空前の「売り手市場」となっている。一方で労働市場において忘れられ、見過ごされている問題がある。『ルポ 中年フリーター/「働けない働き盛り」の貧困』(小林美希著、NHK出版新書)で取り上げられている、就職氷河期時代に社会に出て、正社員になれずに現在「中年フリーター」と呼ばれるようになった人たちの存在だ。日本では、新卒時に正社員になれなかった者は、そのまま非正規の職に就くことが多い。かつて新卒時に就職氷河期を経験した世代が今、中年(35歳から54歳)の年齢になった。好景気に見放された「中年フリーター」たちは、不安定な雇用、過酷な労働環境で働かざるを得ない。当事者への取材と、各種統計とを併せて紹介し、近い将来、社会保障制度を根本から揺るがしかねない、見えざる貧困問題について警鐘を鳴らす。
『給食の歴史』(藤原辰史著、岩波新書)は、学校給食の歴史を振り返る、ありそうでなかった1冊。ある人にとっては楽しみであり、ある人には苦痛だったかもしれない給食という時間。多くの人がさまざまな「思い出」を持つ学校給食だが、普通の人は自分が通った地域の給食しか知らない。日本の教育にどのような影響を与え続けてきたのか、諸外国の「給食」と比べ日本の給食にはどんな長所と短所があるのかなど、知っているようで知らない給食の歴史を振り返る。貧困児童への配慮、食物アレルギーへの対応、給食の合理化と質の確保の問題、調理員の待遇など、給食に関連する現在進行中のさまざまな課題についても触れる。
┃ 世界はアフリカをどう見ているか
『改訂新版 新書アフリカ史』(宮本正興+松田素二編、講談社現代新書)は、20年ぶりに改訂されたアフリカ入門書の決定版(初版は1997年)。この20年間、世界の中でも特に大きな変貌を遂げたアフリカ現代史部分を大幅に加筆し、その他の記述に関しても、新しい知見や主張に基づいて内容を全て見直したという。
初版が刊行された頃の20世紀末のアフリカは、相次ぐ内戦、飢餓や貧困、HIV/エイズの蔓延、環境破壊など、「絶望の時代」と考えられていた。それが21世紀に入り、アフリカは「成長する大陸」として、国際的に確固とした地位を得ている。金、ダイヤモンド、石油、レアメタルを始めとする豊富な天然資源と、世界平均の2倍以上の割合で人口が増加する「若さ」が、アフリカの経済成長を牽引している。一方で格差の拡大と固定、環境破壊は前世紀に引き続き深刻な課題でもある。アフリカ市場で圧倒的存在感を増している中国の戦略にも注目し、世界はアフリカをどう見ているか、今後アフリカはどう変化していくのか、さまざまな視点から考察する。
※2018年11月刊行から(次号につづく)