┃明治維新150年
明治維新から150年となる2018年、NHK大河ドラマ「西郷どん」の主人公として注目を集めるのが、西郷隆盛。『西郷隆盛/手紙で読むその実像』(川道麟太郎著、ちくま新書)では、西郷自身が家族や親友に書いた手紙という「一次史料」に注目し、その生涯を綿密に読み解こうと試みる。
一時は「慶応の功臣にして明治の賊臣」だった西郷が、のちには再び忠君愛国の鑑として、また悲劇の英雄として扱われるようになる。これまでもその生涯について書かれた書籍は数多いが、激動の時代に生きた人物だからこそ、そこには虚偽や虚構、後世の歴史家によってゆがめられた事実も多いと著者は指摘する。歴史上の大人物ではなく、本名・西郷吉之助としての人物像にできるだけ近づこうとしている。
西郷については昔も今もなぜかいろいろな人が語りたがる。西郷はそれぞれの人の理想を託して語られる、「イメージ先行の男」ではないか、と評しているのが『徳川家が見た西郷隆盛の真実』(徳川宗英著、角川新書)の著者。50年の間に何度も名前を変え15も名前を持っていたという西郷の、「イメージ」の陰に隠れているさまざまな謎をどう見るか。田安徳川家第十一代当主という著者ならではの視点で、徳川家や島津家にまつわるエピソードを交えながら西郷隆盛の実像に迫る。
2018年は明治維新150年と並び、「蝦夷共和国 150年」でもある。『榎本武揚と明治維新/旧幕臣の描いた近代化』(黒瀧秀久著、岩波ジュニア新書)では、幕末の激動期にオランダに渡り海外の科学技術の最先端を学び、日本の近代化に大きな役割を果たした榎本武揚の生涯を学ぶ。榎本が夢見た「蝦夷共和国150年」とは何なのか。箱館戦争で敗れた後も、旧幕臣でありながら北海道開拓や殖産興業に大きな役割を果たすことができた要因は何なのか、その人物像に迫る。
┃どこまで進む日本人の清潔志向
「消毒」「殺菌」「抗菌」「消臭」「除菌」をうたう商品 が次々と誕生し、目には見えない「バイ菌」への恐怖心をあおるテレビコマーシャルが頻繁に流される。日本人の「いきすぎた清潔志向」が年々過激になっていると指摘するのが『手を洗いすぎてはいけない/超清潔志向が人類を滅ぼす』(藤田紘一 郎著、光文社新書)。
著者は寄生虫学や免疫学の専門家。「健康のため」に多くの人が励行している、薬用せっけんによる手洗いやアルコール消毒などは、免疫力を下げ風邪をひきやすい身体をつくる元凶だと警告している。身の回りの菌は100%排除したい、などの「誤った」超清潔志向に陥っていないか、思い当たる節がある人は一読をおすすめしたい。
明治時代になるまで、日本人は、肉を食べる文化がなかった、とはよく言われている。しかし、『ニッポンの肉食/マタギから食肉処理施設まで』(田中康弘著、ちくまプリマー新書)の著者は、日本人も太古の昔から普通に肉を食べていたことを紹介する。いまや完璧にシステム化されたウシ・ブタ・ニワトリなどの食肉処理と流通の現場。ジビエ・ブームにより注目を集めるようになったシカやイノシシ、ウサギといった野生獣の狩猟と解体の現場。ここ半世紀ほどで急激に変化を遂げた日本人の肉食文化を考察している。
『炎の牛肉教室!』(山本謙治著、講談社現代新書)は、すばり「牛肉」のみに焦点をあてた珍しい1 冊。「肉フェス」というイベントが各地で人気を集め、骨付きステーキ肉の専門店が激増している、空前の肉ブームだという。国産牛肉と輸入牛肉違い、牛肉のおいしさは何で決まるのか、ブランドと化した「黒毛和牛」の格付け問題などなど、知っているようで知らない牛肉のあれこれを語り尽くす。
ストーカーによる凶悪事件がマスメディアによって大きく報道されることが増えている。『ストーカー/「普通の人」がなぜ豹変するのか』(小早川明子著、中公新書ラクレ)の著者はストー カー、DVやハラスメントなどのカウンセリングを行う専門家。被害者からの依頼により、ストー カー加害者とのやりとりも行うことがある。警察ではなく、第三者や代理人が間に立つことで、被害者は精神的にも楽になり、加害者も被害者の気持ちを冷静に聞くことができるようになることが多いという。
著者が扱ってきたストーカーについての相談案件のほとんどは、ニュースになるような凶悪な事件ではないが、「男女間のよくある小さなトラブル」も、対処を誤ると取り返しのつかないような事態になる危険性もある。昨今では、SNSを利用した素性を知らない相手による「顔のないストー カー」も激増していることや、リベンジ・ポルノなど悪質な手口への対応策など、現代人の誰もが知っておくべきことが書かれている。ストーカー の心情を知ることで、一歩間違えばストーカーの「加害者」になってしまう危険性についても改めて考えさせられる。
※2017年12月刊行から
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