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獣医学部と軍事研究

┃獣医学部と軍事研究

『科学者と軍事研究』
池内 了(岩波新書)

『科学者と軍事研究』(池内 了著、岩波新書)は、2016年6月刊行の『科学者と戦争』(岩波新書)のいわば続編。特に、軍事研究のターゲットとなっている工学系分野の研究者が置かれている実情について報告する。競争原理が厳しくなり、短期間で研究成果を問われることで常に心理的に追い詰められている彼らに対し、財政的な力で国家が優秀な科学者を軍事研究に参加させようと促す方策をとっている、と指摘する。ただし、著者らによる「軍学共同反対」運動が大学関係者に与えた影響もあるのか、防衛省は露骨な軍事化路線ではなく、産業界主導による「軍産学」の結びつき強化策など、巧妙な手法をとるようになっている。「科学と大学を取り巻く状況は非常に深刻であり、このままでは日本の学術全体の実力低下は確実」と警告している。

昨年大きな話題となった、獣医学部新設の件だが、これももしかすると軍事研究と絡むのではないか、と予想している。実際に調べていくと、新設される獣医学部の重要な役割として、「人獣共通感染症」対策や創薬のための「動物実験の重要性」がうたわれ、「生物化学兵器の実験・開発・対応」を担う役割が期待されている、という側面が見えてきたという。「軍事研究については、また続編を書かなければいけない」としている。

『日本軍兵士』
アジア・太平洋戦争の現実
吉田 裕(中公新書)

『日本軍兵士/アジア・太平洋戦争の現実』(吉田 裕著、中公新書)では、多くの部隊史や兵士の回想記といった一次資料をもとに「兵士の目線・立ち位置」からアジア・太平洋戦争を改めて振り返る。これまで戦記では語られることの少なかった、戦場での餓死、自殺、落伍していく傷病兵への「処置」(自決を勧告し、強制する)を克明につづる。また、戦争中に得たマラリヤ、水虫などに敗戦後何年にもわたり苦しめられていた人々や、覚せい剤中毒の深刻さについても伝えている。事実をもとに、日本軍兵士が「どのように死んでいったか」「どのような凄惨な体験を強いられていたか」をきわめて具体的に検証していく。

日本軍の戦闘力の過大評価、または日本陸海軍の「礼賛」を思わせる論調で、先の戦争を美化するかのような声が根強く上がる昨今の風潮を警戒し、こうした「死の現場」の報告を、繰り返し訴えていく必要がある、としている。

┃マスコミに登場する障がい者は「頑張る」か「かわいそう」

『目に見えない世界を歩く』
「全盲」のフィールドワーク
広瀬浩二郎(平凡社新書)

『目に見えない世界を歩く/「全盲」のフィー ルドワーク』(広瀬浩二郎著、平凡社新書)の著者は、13歳の時に失明し、「全盲のハンディを乗り越え」京都大学に進学、現在は民俗学博物館の准教授を務める文化人類学者。友人やボランティアの支援を得ながら学んでいた大学時代に、「目が見えなくてもできることを増やす努力や工夫には限界がある」と悟り、「目に見えない」世界を研究対象とすることにしたという。視覚情報を補うためだけではない、「さわる文化=触文化」の奥深さと豊かさを訴える。

パソコンの読み上げ機能の進化、インターネットの利用などで、点字を使わなくても情報収集が可能になってきた。その一方で、昨今深刻だと著者が感じている、視覚障がい者の「点字離れ」の現状にもふれている。マイノリティーからの発言・発信がなければ、社会を変えることはできないと、目が見えない自分にしかできない、知的生産の可能性を日々探っていくという。

同じく、マイノリティーから声を上げないと社会は変わらない!と「お笑い」という武器を使って声を上げ続けているのが、『考える障害者』(新潮新書)の著者、ホーキング青山氏。車イスのお笑い芸人としてデビューしてから20年以上になる著者は、先天性の難病により生まれた時から両手両足が使えない。

デビュー当時の障がい者への捉え方は、「聖人君子のように扱うもの」と、「厄介者」として扱うもの、この2つの両極端のものしかなかったという。この20年で、世間の障がい者への認識の何がどう変わったのか、変わっていないことは何か。なぜ障がい者は「気を遣われ」そこから「タブー」が生まれるのか。著者が「大事だけれどあまりふれられていない」と指摘するお金の問題も取り上げる。障がい者の暮らしについての「コスト」をどう考えるか、当事者以外にはなかなか踏み込めないところへ切り込んでいく。

※2017年12月刊行から

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湯原 葉子
連想出版編集部が出版する ウェブマガジン「風」編集スタッフ。新書をテーマで連想検索する「新書マップ」に2004年の立ち上げ時から参加。 毎月刊行される教養系新書数十冊をチェックしている。 ウェブマガジン「風」では新書に関するコラムを執筆中。