┃近代日本150年
開国以来、西欧諸国に約50年遅れで、科学技術の進歩に基づき、生産力を増強して経済成長を追い求めて来た日本。『近代日本一五〇年/科学技術総力戦体制の破綻』(山本義隆著、岩波新書)は、科学技術の変遷からみる日本近現代史である。科学技術の進歩とそれに支えられた経済成長が、無条件に良いものであるという、日本人に長年刷り込まれた価値観。著者は今、それを見直すべき時にあるのではないか、という視点で近代日本の150年を振り返る。
福島第一原発の事故を機に、ドイツやイタリアなど「脱原発」を宣言する国も出ている。そんな中、当事者である日本はどうか。
「わが国の安全保障」、つまり広義での軍事目的を、原子力開発の目的として堂々と掲げられるように、「原子力基本法」の条文を追加している。日本の原子力開発の目的に、「潜在的核武装路線(その気になればいつでも核武装ができる)」がある、という見解を公言する政治家は、岸 信介元内閣総理大臣など、これまでにもいた。しかし、現政府はさらに踏み込んで、軍需産業を最大の成長戦略と位置づけ、財界も「日本経済の牽引車」と、公然と期待する。
大学には軍事研究への協力が要請されている。科学者は再び、「科学動員」に直面しているのだ。過去の戦争に対する「反省」への本気度が、今の科学者たちに、社会全体に問われている、と著者は強く警告している。
┃幕末・維新の連続性
『王政復古/天皇と将軍の明治維新』(久住真也著、講談社現代新書)は、王政復古は単なるクーデーターだったわけではない、という視点から幕末・維新の連続性を考察する1冊だ。江戸時代は、日本史上「政治から天皇を最も遠ざけていた時代」だという。天皇が政治君主として再び登場するまでに、宮中やその周辺で画策を続けた将軍、大名、公家、藩士、志士らの動きと思惑を描く。
『戦前日本のポピュリズム/日米戦争への道』(筒井清忠著、中公新書)は、著者が「日本において初めてポピュリズム現象が登場した事件」とする、1905年5月の日比谷焼き打ち事件を中心に、ポピュリズム現象が影響した日本史上のさまざまな事件を紹介する。今、世界でも日本でも問題となっている「ポピュリズム」とは何なのか、改めて考えさせられる。
『オッペケペー節と明治』(永嶺重敏著、文春新書)で取り上げている「オッペケペー節」とは、明治期最大の流行歌のひとつである。政治批判や上流階級への批判、文明開化への風刺をうたう七五調の歌詞のあとに「オッペケペ、オッペケペ……」と、囃子ことばが付くというスタイルだ。旋律は、メロディーというよりは語り口調で、今でいうラップミュージックのようなものかもしれない。
この歌は替え歌も多数作られ、日本全国、津々浦々に広まった。本書では、今では廃れてしまったこの歌のルーツをたどり、オッペケペーという謎の言葉の語源などを調べると共に、この歌が大流行した明治20年代の社会背景を考察している。
この時期からは、活字文化も発達し始めた。それまでは文字を声に出して「音読」する、「声の文化」が主流だったが、この頃から人々は新聞、雑誌を黙読するようになり、「文字の文化」へと変化することになる。オッペケペー節の一大ブームを呼んだ時代が、その移行期にあったことも指摘している。
近年になって、あるアメリカ人研究者によって、オッペケペー節の音源が発見された。明治33年にパリ万博で川上音二郎一座が録音したそのレコードの音は、調査の結果、現存する日本人の声としては最古の録音だとわかったという。この音源を含むCDは1997年に東芝EMIから発売され、動画投稿サイトのYoutubeでもこの音源を聴くことができる。
※2018年1月刊行から
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