┃政教分離と信教の自由は両立可能か
『ライシテから読む現代フランス/政治と宗教のいま』(伊達聖伸著、岩波新書)は、厳格な政教分離を共和国の理念とするフランスで、信教の自由と政教分離は矛盾しないのかなど、さまざまな葛藤を紹介する。
ライシテとは、「フランス独特の厳格な政教分離」とも言われ、公立校でイスラム教徒のスカーフを禁止するなど、他の国には例を見ない。大統領選の主要な争点にもなった、政教分離に対する寛容と厳格さのバランスについて考えていく。
『マーティン・ルーサー・キング/非暴力の闘士』(黒崎 真著、岩波新書)は、非暴力を訴える、貧困のないアメリカの実現を願って活動を続けたキング牧師の生涯をたどる。今日、多くの人が思い浮かべるキング像は、1955年~65年の南部公民権運動を指導した際の姿、有名な「私には夢がある」演説、ノーベル平和賞を受賞したカリスマ的指導者像としてのキング氏である。
しかし、著者は、こうしたキング像は、政治的に無害な、万民に受け入れやすい「公的記憶としてのキング」である、と指摘する。キングは、ベトナム戦争の際に反戦表明をしたが、黒人の地位向上のためにも戦争協力は欠かせなかったこの時代、連邦政府を敵に回したキングは一転して非難の的となった。貧困根絶の取り組みも生涯続けていたが、そうしたキングの活動は、当時の政府にとって不都合があったばかりでなく、その後、歴代大統領たちによっても「なかったもの」とされている。暗殺から今年で50年の今、現大統領自ら、アメリカ第一主義と人種偏見の発言を繰り返している。アメリカはキングの「夢」からむしろ遠ざかっているのではないか、と著者は指摘する。
『スポーツ国家アメリカ/民主主義と巨大ビジネスのはざまで』(鈴木 透著、中公新書)では、野球、アメリカンフットボール、バスケットボールといったアメリカ生まれの競技(著者は「アメリカ型競技」と呼ぶ)を中心に、スポーツがこの国のあり方にどう影響を与え続けているかを考察している。
人種の壁、女性差別の壁とスポーツはどう向き合ってきたか。巨大放映権ビジネスはスポーツに介入し、ルールの変更もたびたび行われている。スポーツ、特にアメリカ型競技の成り立ちから、アメリカという国を新たに捉え直そうとする斬新な視点である。2019年のラグビー・ワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのホスト国として、スポーツを社会の中でどう位置付けていけば良いか、身近な問題として考えるきっかけにして欲しい、としている。
┃AIをどう理解していくか
新書に限らず、さまざまな分野・角度から「AI」をテーマにした書籍は続々と刊行されている。『高校生のための ゲームで考える人工知能』(三宅陽一郎、山本貴光著、ちくまプリマー新書)は、ゲームのキャラクターの人工知能という「具体例」を使ってAIについて理解してみようというもの。
著者のふたりは、共に気鋭のゲーム・クリエイター。コンピューター・ゲームは、コンピューターの性能が格段に向上したことで、複雑で大規模なゲーム世界をリアルタイムで動かせるようになった。ネットワークにつながることで、たくさんのプレイヤーが同時に遊ぶことも当たり前になってきている。プレイヤーを飽きさせない状況の変化や物語をどう作り上げていくか、若い世代に向け、最先端ゲーム開発の舞台裏を紹介している。
『教養としてのテクノロジー/AI、仮想通貨、ブロックチェーン』(伊藤穰一、アンドレー・ウール
著、NHK出版新書)は、新しいIT用語が次々と登場し、理解できないために「自分とは関係ない」と
思っている人のための1冊。AI、仮想通貨、ブロックチェーンなどに代表されるテクノロジーは、全ての人が技術的な仕組みを理解するのは難しいかもしれないが、「教養」というレベルで理解していくことが、現代社会を生きていく上では必須である、と著者らはいう。
「労働」や「国家」、「資本主義」、「教育」は新しいテクノロジーの登場により、どう変化していくのか、変化の激しい時代に日本人はどう変わるべきなのかを訴えかける。『ゆるいつながり/協調性ではなく、共感性でつながる時代』(本田直之著、朝日新書)では、肩書きが重要視される昭和的なつながりと比較して、SNS時代に必要な「ゆるいつながり」とは何かを論じている。AIには真似できない、自分ならではの価値をどう磨き、楽しく生きていくか。「人脈」という従来の言葉では表せない人間関係の新しいあり方を模索している。
※2018年3月刊行から