┃声の魅力
「声」とは何か、魅力的な「声」とは何か。言葉や話す内容ではなく、実は「声」そのものによっ
て、私たちの行動は大きく支配されている、というのが『声のサイエンス/あの人の声は、なぜ心
を揺さぶるのか』(山崎広子著、NHK出版新書)。自分の声、特に録音した自分の声が「嫌い」だと
言う人は多いがそれはなぜなのか。声という音が心身に与える影響について調査研究を続けてきた視点から、自分の声の、他者および自分自身への影響力について考えていく。
人々は周囲の環境に「無意識に」自分の声を適合させているという。著者はさまざまな人の声を分析しているが、最近、若い女性の話し声が異常に高くなってきているのが気になっているそうだ。諸外国に比べて異常なほど高い作り声で話す日本女性が多いのは、今の日本が女性が「素の自分」でいられない社会だということを示しているのではないか、と危惧している。
『日本人のための声がよくなる「舌力」のつくり方/声のプロが教える正しい「舌の強化法」』(篠原さなえ著、ブルーバックス)の著者は、アナウンサー、声優、ナレーターなどの「声のプロ」やその卵たちへの指導を手がけて来た。自分の声や話し方に対してコンプレックスがある人への指導を通して見えてきたのは、滑舌に必要なのは「舌の力」=舌の筋力だという。日本語を発音するために必要な、舌に関する知識と努力(トレーニング)によって喋る声を変え、自信を取り戻すことができる、としている。
一方、滑舌や発音の問題に関わる鼻、歯並び、舌の機構にはトレーニングでは解決できないものもある。従来「鼻づまり」や「舌足らず」など、「生まれつき」のものとして見過ごされて(諦められて)きたことが、今日では医学的に解決可能な方法もあると紹介している。発声・滑舌など自分の声に悩みを抱えている人だけでなく、子どもを持つ親、子どもたちを指導する立場にある多くの人に向けて書いている。
今、若者が憧れる人気職業のひとつと言われるのが声優だ。『声優/声の職人』(森川智之著、岩波新書)では、人気・実力ともトップクラス、30年以上第一線で活躍を続ける著者が、身近なようで実はあまり知られていない「声優」の仕事の舞台裏を明かす。著者は、海外映画の吹き替え、アニメ声優、ナレーション、ゲーム、スマホアプリ、CMなど、さまざまなジャンルで活躍する傍ら、声優事務所の社長や、声優養成所の講師として育成の仕事も行っている。人気声優がアイドル並みに「表舞台」で活躍する昨今の風潮も否定はしないものの、声優はあくまで声だけで勝負する職人的な仕事であることを強調している。その技術を磨くために最も重要なのは、台本を読み解く「読解力」つまり「日本語力」だという。非常に説得力がある。
┃歴史の視点を変えてみる
『戦国日本と大航海時代/秀吉・家康・政宗の外交戦略』(平川 新著、中公新書)では、戦国時代の
日本史と世界史の接点に着目している。史料をもとに、「豊臣秀吉はなぜ朝鮮に出兵したのか」、
「徳川家康はなぜ鎖国をしたのか」、「日本はなぜスペインやポルトガルの植民地にならなかったのか」などの謎を解き明かす。不毛な争いを繰り返していたかに見える戦国時代だが、ヨーロッパ人による植民地支配に対抗できる軍事力を備えることができた時代、と見ることもできる。朝鮮出兵は日本にとって侵略という負の遺産でもあるが、そこで発揮された国力によって、日本の植民地化を防ぐことにつながったのではないか、という分析も可能だという。視点を変えることで可能になる、歴史の新たな見方を示している。
ひと昔前まで、江戸時代の日本の科学については、鎖国のため長期にわたり停滞していたとしてあまり評価されていなかった。『江戸の科学者/西洋に挑んだ異才列伝』(新戸雅章著、平凡社新書)の著者は、洋楽史や科学史研究から、江戸時代の科学事情を検討し、西洋に遅れてはいたものの、すでに相当の水準にあったことを明らかにする。平賀源内、関 孝和、緒方洪庵ら11人の江戸時代の科学者の生涯を紹介し、明治維新後に近代科学が花開く礎となった天才たちの魅力に迫る。
『明治の技術官僚/近代日本をつくった長州五傑』(柏原宏紀著、中公新書)は、幕末にイギリスへ密航し、帰国後は日本の近代化に大きな役割を果たした長州藩出身の5人(井上 馨、伊藤博文、井上
勝、遠藤謹助、山尾庸三)に着目する。先に帰国することとなった井上 馨、伊藤博文のふたりは後に有力な政治家として歴史に名を残した。残る3人は比較すると知名度が低いが、海外で得た理系知識や技術の専門性を生かし、新政府において官僚となって活躍した。彼らの負の側面にも目を向けつつ、近代国家形成において長州五傑が果たした役割を改めて評価している。
※2018年4月刊行から