┃政府の対策を待っていては間に合わない人口減問題
『未来の年表2/人口減少日本であなたに起きること』(河合雅司著、講談社現代新書)は、人口減少社会でこれから起きることを年表形式で「具体的に」示し波紋を呼んだ『未来の年表』の第2弾。少子高齢化が進み、街に高齢者があふれ返る。街で、家庭で、職場で、具体的にどのような問題が起き得るのか。顧客のほとんどが高齢者になると、小売業やサービス業にはどのような発想の転換が求められてくるのか。『未来の年表』第1弾では、さまざまなデータ予測を基に「2033年には3戸に1戸が空き家に」などの警告が示された。本書では、政府や自治体をあてにするのではなく、個人や企業が自分たちで今からできる、人口減少の影響をできるだけ回避するための対策を提示している。
『定年準備/人生後半戦の助走と実践』(楠木新著、中公新書)は、昨年4月に刊行され大きな反響を呼んだ『定年後/50歳からの生き方、終わり方』に続く、「実践編」。人生100年時代、とも言われる今、定年後の充実した生活、「人生後半戦の助走」には45歳くらいから、本当にやりたいことを見極め、意識的に準備することが重要だとしている。シニア社員や、定年退職者への取材を重ね、定年という区切りで、自分をどう取り戻すか、そのための準備をどうすべきかの実例を、できるだけ具体的に紹介していく。
最近、コンビニやスーパー、居酒屋などで外国人スタッフが増えていると、つくづく実感している。私たちが一般には目にする機会の少ない、工場、農場、介護施設などでも、外国人労働者の数は近年急増しているという。『コンビニ外国人』(芹澤健介著、新潮新書)では、都会の24時間営業のコンビニを中心に、人口減、高齢化が進み、外国人労働力なしでは成り立たなくなりつつある日本の現状を報告する。本書によれば日本はすでに世界第5位の「外国人労働力の流入国」になっているという。公式にはまだ「移民」が認められていないはずの日本で、なぜそのようなことが可能なのか、「留学生」や「実習生」というシステムのからくりと闇の部分に着目する。
┃子どもの命を社会がどう守るか
悲惨な児童虐待死事件が報道されるたびに、世間の批判を集めるのが児童相談所である。『ルポ児童相談所』(大久保真紀著、朝日新書)では、急増する児童虐待事件に、児童相談所はどう対応しているのか、現場を取材し、スタッフの実情を報告する。虐待を繰り返す親から子どもを守るために、法律で変えられることはないのか、警察や公的機関の「介入」はなぜ困難なのか、構造的な課題に切り込んでいる。そもそも、児童虐待の防止にかける予算が、諸外国に比較して少な過ぎるところがこの国の大きな問題である。解決の糸口はまずはそこから、ということが本書を読むとわかる。
『なぜ、わが子を棄てるのか/「赤ちゃんポスト」10年の真実』(NHK取材班著、NHK出版新書)は、育てられなくなった子どもを匿名で(罪に問われずに)放棄できる日本で唯一の施設、熊本県の私立病院に設置された「こうのとりのゆりかご」(通称「赤ちゃんポスト」)について取り上げたNHKの番組を書籍化したもの。本書によればこれまでに預けられたのは130人。賛否両論あるこの施設の開設から10年を迎えたこれまでの軌跡や、預けられた子どもたちのその後についてなどを取材している。「赤ちゃんポスト」は、子どもを育てられない、と追いつめられた親たちにとって最後のとりでであるが、自分勝手な「安易な利用」と考えられるケースも多々あるという。さまざまな事情で子どもを育てられない親は、子どもの命を守るためにも行政に相談し、しかるべき施設に託すべき、と多くの人が考える。国もそうした立場をとる。しかし「赤ちゃんポスト」に入れるしかない、という人がこれだけいる、そのことも真実だ。
学業や日常生活を犠牲にして家族の介護を行う若者の負担と孤独を取り上げる『ヤングケアラー/介護を担う子ども・若者の現実』(澁谷智子著、中公新書)。「やりがいのある仕事につくべき」「仕事で自己実現すべき」と、いかに多くの人々を過重労働へと駆り立てているかを警告しているのが『自己実現という罠/悪用される「内発的動機づけ」』(榎本博明著、平凡社新書)。「失われた20年」という時代に重なって生きるアラフォー女性の受難を見るのは『非正規・単身・アラフォー女性/「失われた世代」の絶望と希望』(雨宮処凛著、光文社新書)。以上3冊のタイトルはいずれも、「個性を大事に」「仕事で輝くべき」「家族のケアは家族がすべき」などと教育されてきた「優しい」世代が、自分を犠牲に生きるしかない現代日本を象徴している。過酷な受験戦争、就活競争を
強いられながら、働く、結婚する、子育てをする、という「普通の幸せ」を手にすることが困難な時
代に生まれた人々の今後はどうなるのか。そうした世代の「犠牲」を前提に成立している日本のこれからに大きな不安を感じてしまう。
※2018年5月刊行から